剥かれる〜愛美の受難2

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1 一夜明けて

『真っ赤な軽なんて、女が運転してますってわざわざ知らせてるようなものじゃないか。まして運転するのがおまえみたいな若い娘であれば、どこで危ない奴の目に留まるかわかったものじゃない』
 私の愛車になるはずの、赤い軽。その前で父が私を説得しようとしている。
 大学の卒業式を終えて間もない 3 月のある日だった。私は 22 歳になったばかり。
『だから愛美、もっと地味な色の車にしないか。こっちのブルーのだって綺麗だがなあ』
 だが、いつも最後の最後というところで父は私に甘い。そのときもそうだった。結局、私が押し切る形で買ってもらったのだ。
『真っ赤な車で夜道をドライブはまずかったよな』
 キョウスケの顔が私に迫っていた。
『それとも、わざと目立って俺たちに見つかろうってか?』
 赤い軽などに乗っているから目を付けられたのだ−−
 父の言うことを聞いて、ブルーのにしておけば良かったのかだろうか−−
 −−−−−−−−−
 −−−−−−
 −−−
 はっ。
 気がつくと、私は自分の車の中にいた。
 倒した運転席のシートで毛布を着せられて眠っていたのだった。
 日曜の朝。すっきりとした晴天。日はもう高く、陽光が注いで車内は暖かかった。
「…う…」
 身を起こそうとすると全身が痛んだ。
 手首にはくっきりと縄の跡。
 股間にはまだ何かに貫かれているような感覚が残っている。前にも、後ろにも。
 暴走族に捕まって、レイプされた。
 大勢のオスたちに夜通し、めちゃめちゃに犯された。精根尽きるまで。
 いや−−
 精根尽きても、許されなかったのだ。
 常軌を逸していた。私ひとりに 30 人がかりだなんて−−
 私が歳上で、人妻だからって−−無茶をするにもほどがある。
 でも、終わったんだ−−
 解放されたんだ−−
 ふう、と溜息が出る。ふと助手席を見て仰天した。
「ひっ」
 キョウスケが寝ていたのだ。私が飛び起きるとその気配でキョウスケが目覚める。
「あ…気がついたのか」
 もはや恐怖はない。が、あまりのことに私は戸惑い、思わず両手で上半身をかばって身を強ばらせる。
 毛布の中を確かめると、私はいちおう服を着せられていた。ずたずたに切り裂かれたノースリーブのブラウスとキャミソール。ストッキングはほとんど原形をとどめていない。スカートとカーディガンは、始まる前に脱がされたから無事。イヤリングも両方ある。
 私の全身から異様な臭気が立ち上っているのにそのとき気づいた。たぶん、ほとんどは男たちの体液。それに私の汗や体液が混ざり、そんなものが全身にこびりついて、卑猥な悪臭を漂わせているのだ。
 一刻も早く、身体を洗いたい−−
 そんな惨めな姿でいるのも目の前のケダモノのせいなのだが、そのケダモノに見られるのも辛かった。
 まさか、もう私をどうこうしようというつもりではないのだろうが−−
「帰り道がわからないだろうから、先導するよ」
 ぶっきらぼうにそう言うとキョウスケは私の車を降り、自分の車へ歩いていく。
 集団レイプの張本人。被害者を前にして、罪の意識は全くないような−−
 こんなことは日常茶飯事だとでも?−−
 キョウスケは車内から何か取り出すと再びこちらへ来る。ドアを開けて、
「水分、取りなよ」
 スポーツドリンクのペットボトルを差し出す。そう言われて、自分がひどく渇いているのに気づいた。
「…ありがとう…」
 受け取ってキャップを外し、ごくごくと飲んだ。
 私は一晩でいったいどれだけ水分を失ったのか−−
 絞り取られたのだ。悲鳴とともに、涙と、汗と、そして−−
 潮。潮を吹かされた。大量に−−
 数え切れないほど絶頂させられて−−
 ひどい目に遭わされた。いま生きているのが不思議なほど。
 キョウスケが私をずっと見ているので顔を背けた。
 私とキョウスケ以外に人の姿はない。車も 2 台きりだ。目的を果たしたので解散したのだろう。相棒の彼−−ユウタもいない。
 そうだ、バッグ。
 中身を全部見られたバッグは−−助手席にあった。
 視界がぼやけている。陵辱されるうち、いつしかコンタクトが外れたのだ。倉庫に落ちているのだろうが、今さら探しても見つかりはしないだろうし、探す気も全く起こらない。
 それでバッグから眼鏡を取り出して掛けた。スチールのフレーム。色はワインレッド。
 眼鏡の私を見たキョウスケが「ほう」という表情を見せた。猛禽類のような顔が、初々しい少年の顔に変わった。
 思いがけないことに、その表情がなんだか可愛く思えてしまった。
 男のあんな表情を何度か見たことがある−−
 横目で視線を送ると、キョウスケは照れたように背を向け、自分の車に戻る。
 彼の車にエンジンがかかり、おもむろに発進した。私も続いて発進。時刻は 9 時を回ったところだった。そのまま、資材置場らしい「現場」を離れた。
 さんざん陵辱されて、解放されたのは明け方近かったはず。だからあまり長く眠ってはいない。今は一時的に回復した気がするだけで、身体は疲労困憊しているだろう。いつどこで睡魔が襲ってくるか、わかったものではない。
 道は空いている。昨日見たのと同じ晩秋の美しい風景。それなのに−−
『満足させてやるぜーーっ』
 バイクの男のセリフが不意に蘇り、アクセルを踏む足がまた震えた。
 キョウスケの先導に従って十数分走り、昨夜彼らに囲まれてコース変更した交差点に来た。彼はそこでハザードランプで合図し、私の帰路とは逆方向へ去った。
 私の車だけになって、ようやく緊張が緩む。だが−−
 本当に、終わったのだろうか−−
 一晩限りのことなのだろうか−−
 考えたくないことを、考え始めてしまった。
『カメラ、回ってるから。録音もな』
『 DVD とか作っちゃうよ』
 そうだ。昨夜の一部始終は録画されたのだ。
 私の名前も、住所も、そして陵辱されている姿も、彼らの手中にある。
 もはや私は彼らの虜のようなものだ。
 だから彼らはあっさり解散したし、キョウスケも罪の意識とは無縁でいる。
『こんな美人でエロくて派手に潮を吹くんだから、時々お願いしなくちゃならないからよ』
 そんなことも言っていた。
 これで済むはずはない−−

 幸いにして睡魔に襲わることはなかった。身体は解放されたが、精神的には完全に奈落の底に落ちてしまい、ひとりになってからはどこをどう走ったのか記憶がない。やっとのことで家に帰り着くとベッドに倒れ込み、服を着たまま再び眠りに落ちた。
 目覚めると日が傾いていた。
 浴室に入り、シャワーを盛大に浴びた。 2 度、 3 度と繰り返し髪と身体を洗った。
 そして浴槽に浸かる。身体のあちこちを確かめるように撫でた。
 全身にキスマークと噛まれた痕が生々しい。うなじに、乳房に、脚に−−
 信じられないことだが−−前と後ろで合わせて 100 回以上、犯されたはず−−
 奇跡的に、どちらにも裂傷はなかった。キョウスケの言葉を信用すれば膣の中には射精されていないはず。腸には出されたけれど−−だから、妊娠の心配もない。
 身体が愛おしかった。つい、脚や乳房を愛撫する。
 今日はさすがに淫欲が高まってきたりはしない。
『くくく…いいぞ、何も出なくなるまでだ…全部絞り取ってやるからな』
 キョウスケの血走った顔。
 ユウタにアヌスを犯されながら、キョウスケの長い指に膣内を掻き立てられ−−
 潮を吹かされた。何度も、何度も。男たちの嘲笑を浴びながら−−
 本当に、何も出なくなるまでいかされた。
 股間に何か突き刺さっているような感覚は、まだ消えない。
 なかなか浴槽から出られなかった。いったん身体をくつろげてしまうと力が入らない。やっとのことで湯船から上がっても、満足に歩くこともできないのだった。
 パンとコーヒーで空腹を満たすとその夜は眠りに就いた。
 月曜は会社を休んだ。 39 度近い熱が出ていた。うなじや脚のキスマークも消えない。それで外にも出ず、ずっとベッドで横になっていた。
 私は−−
 私は、どうするの?これから−−
 身体が回復したら、日常に戻るの?−−
 警察に届け出る勇気はない。キョウスケやユウタが逮捕されたとしても、一網打尽とはいかないだろう。逆恨みされて録画がネットに流れたりしたら、破滅だ。
 夫にも、両親にも、今回のことは絶対に秘密。
 だけど−−
 これから、録画をネタに金品を強請られたりしたら、どうしよう。
 金品ではなく、またオスの集団に身体を提供させられるかも。
 その時はどうすればいいのだろう。従うしかない?−−
 私の心は相変わらず奈落の底にあった。どんよりと重苦しい気分のまま。
 こんなときにも夫から電話はない。それはむしろありがたいのだが、でも−−
 そんなものなのだろうか−−

 さしあたり急ぐ仕事はなく、微熱があったので火曜も休んだが、水曜にはやっと出社した。ひとりでいるのが怖かったせいもある。
「千倉さん、風邪ですか?」
「ええ、ちょっと熱が出てしまって」
 私は職場では旧姓を使っている。女性の同期や後輩がしきりに気遣ってくれる。
「なんだかやつれちゃって…大変だったみたいな様子ね。無理しないでね」
 そう。大変だったの−−
「ありがと…」
 どうにか日常に戻れた安堵感。優しい言葉をかけられたのと、同性と会話を交わすのがひどく懐かしい気がしたのとで、つい涙ぐんでしまった。
「愛美、どうしたの。何かあった?」
「いえ、何でもないの。ちょっと疲れちゃってて」
「ならいいけど…ところでコンタクト、失くした?」
「うん」
「千倉さん、眼鏡もいいですよ。なんか萌えちゃうな」
 横から男性の後輩たちが割って入る。こういう時、彼らの軽口はむしろありがたい。
「そうそう。素顔もいいけど」
「千倉さん、赤系統が似合いますよね。確かクルマも赤でしょ」
 不意にそう言われて、ドキリとした。
 そうだ。赤い車。あの連中に目をつけられた原因。
 ワインレッドのフレームも、キョウスケに興味を持たれたようだった。
 似合うというよりは、忌まわしい巡り合わせの色なのだろうか−−

2 「昇華堂」と「楼蘭」

 都内某所の地下に「楼蘭」という会員制クラブがある。
 オーナーの諸星は古書購入販売・裏 DVD 製作販売など、自分の趣味に任せて手広く経営し、仲間からはその古書店の名で「昇華堂」と呼ばれている。
 諸星には S プレイの趣味があり、あるパブで知り合った S 男が自分のパートナーを数人がかりで調教してみたいと言うので、会場として古書店地下の倉庫スペースを提供した。それ以来、いろいろな S 男が M 女を連れ込んでは「生贄」にして複数で弄ぶという「例会」を不定期に実施してきている。
 例会を重ねるうち、縄やバイブレータをはじめとする小道具や、磔台や木馬といった大道具類が徐々に充実していった。防音工事を施し、ステージを設け、照明や録画・場内アナウンスの機材も入れた。
 口コミで例会の参加者は徐々に増え、生贄に志願してくる M 女や、資金を出す代わりにショーとして見物させてくれという「ギャラリー」も集まり始めた。 M 女らは不定期に生贄になるほか、そうでない時にはドレスアップしてギャラリーの世話を焼くのである。
 クラブを維持していくにはギャラリーからの資金提供が欠かせない。彼らは会社役員などを引退した、つまりはひひじじいどもが多く、 S 男の集団がひとりの生贄を陵辱する図絵を見てその瞬間だけ機能を回復し、傍らに控えるスタッフの M 女に性欲処理を任せる。ショーの最中は生贄への野次=効果的な言葉責めに余念がなく、それなりに貴重な存在だ。
 S 男のスタッフも増えた。ただ、諸星の方針として、 M 女を痛めつけるだけのプレイはしない。あくまで M 女の潜在願望を引き出し、官能を高め、究極の快楽を与える。いってみれば M 女に<奉仕>するような役割だ。そのためには数にものを言わせるのが有効だし、 M 女の昂奮も高まるので、ひとりの M 女に対して S 男は集団であたる。このような方針を気に入り、かつ諸星の信用を得た者がスタッフとなっていく。
 彼らは概して S プレイの熟練者であり、中には医師も薬剤師もいるので、 M 女たちは安心して身を委ねられる。他にも税理士、写真家、土建屋…と職業は様々である。ただし“その筋”の人間の出入りには十分に気を配っており、そのためもあって弁護士や警察関係者をもスタッフに加えている。土建屋は内装なども手がけているので、ショーのための大道具・小道具を注文に合わせて製作してくれる。今は特製の拷問台を試作中だ。
 在籍する M 女はそれぞれに人気者だが、新人も求められる。何かのはずみで生贄にされた女が、怯えながら集団に陵辱され快楽地獄に堕ちていく、その様を見るのがギャラリーのひひじいいどもにはたまらない。無論それは S 男のスタッフにしても至高の快楽である。それで諸星ほかスタッフは新人 M 女の発掘に日常から余念がない。
 さて−−
 「楼蘭」でのショーの模様は録画・編集されて DVD に焼かれ、会員限定で販売されている。それもまたクラブの収入源であるわけだが、会員が自前で撮ったものを持ち込み、販売を依頼してくることがある。多くは自身とパートナーとの SM プレイを収めたもので、自身がプレイしながらの撮影だからカメラワークも何もあったものではなく、多くは鑑賞に堪えない。肝腎のモデルも、たいていは「楼蘭」の M 女たちに比べて相当に見劣りがし、目の肥えた「楼蘭」の会員に売れるような代物ではない。
 事件性のある録画も持ち込まれるが、諸星はそれらを基本的に受け付けない。ただでさえ“公序良俗”に反する活動をしているのだから、犯罪行為の録画などという危険なものに関わるわけにはいかないし、そもそも大抵は録画・録音の質が悪くて商品化には向かないのだ。「ただやっているだけ」のものも視聴に堪えない。
 だが、ごくまれに掘り出し物はあるのだ−−

 緒方冴子が昇華堂に現れたのは、“事件”の週末が明けた月曜の夜だった。
 冴子がここを訪れるのは 2 度目である。愛人をしている勤務先の社長が「楼蘭」の会員で、冴子も一度だけ同伴したことがあった。冴子を生贄にというわけではなく、陵辱ショーなるものを冴子に見せてやろうとの趣向だった。冴子としては M の気が多少はあるものの、愛人が望むから従っているという面が大きく、自分がショーの生贄になろうという気持ちも、他の女が陵辱される様を見て昂奮するということもなかったのだが。
「やあ、いらっしゃい。緒方さん…冴子さんでしたよね」
 出迎えた店主が自分の姓名を記憶していたのに冴子は驚いた。
「ご無沙汰しています。ご記憶いただいていて、光栄です」
「美人は忘れないことにしてるんでね」
「まあ」
 今日来たことは社長には内密に願いたい、と断ってから、冴子は本題に入った。
「実は、こういうものを撮りまして」
 諸星には、それがどういう類のものかはすぐに見当がつく。だが女性からの持ち込みは珍しい。
「貴女のセクシュアルな映像?」
「いえ、私じゃありません。ちょっとわけありでして…商品価値があるのかどうか、見ていただきたくて」
 無論、仲谷愛美の録画である。
「拝見しましょうか。奥へどうぞ」
 もともと趣味でやっているような店なので、客がいなければさっさと閉めてしまう。
 冴子が通されたのは、ひととおりの機器がそろった編集スタジオだった。
「すごいですね…『楼蘭』のショーのビデオもここで?」
「そうです」
 ディスク数枚に納められた動画を諸星が見始める。冴子が横に座る−−
「おお…」
 まず現れたのは赤の軽を運転する愛美の表情だった。暴走族と思しき車とバイクの群れに囲まれ、恐怖に強ばるその美貌。夜間とあっておおむね不鮮明なのだが、時に愛美の顔がライトに照らされる瞬間がある。諸星を虜にするにはそれで十分だった。
「…拉致・監禁してマワシだね」
「ええ、犯罪行為です。だめでしょうか」
「うーん…モノにもよる、と言っておきましょう」
 車とバイクの隊列は工事現場らしき場所に入っていく。そこの空地に全車両が停止し、その中央に愛美の軽が停止する。エンジン音が止み、男たちがぞろぞろと愛美の車を取り囲む。周囲の車のライトが煌々と光る。奇妙な静けさが全体を包んでいる。
 運転席のドアがおもむろに開くと、細めではあるがほどよく脂の乗った、エロティックな脚が現れた。
 口笛が鳴り、美しい脚が固まる。
 少し間があって、生贄が全貌を露わにした。小柄でスリムな美人だった。
「見事だな…」
 この手の映像でこれほどの美人が登場するのを、諸星は見たことがない。
「 20 代後半…人妻…子どもなし…ってとこですか」
「ご明察ですわ」
 30 人による性拷問が始まったところで、諸星は再生を中断した。
「事情はおいおい伺うとして、この映像、お預かりします」
「そうですか。よかった…」
 生贄の美貌だけでも十分に思えたが、いかにも華奢に見える彼女ひとりに対し、襲う男の数が常軌を逸している。迫力は十分だ。
 そして、いきなり犯すのではなく、まず彼女を快楽責めにするところも諸星は気に入った。素人の撮影ではあるが、商品化を見越して撮影したらしく、この種の録画としては行き届いている。
「ご満足いただける額をお支払いできると思いますよ」
「ありがとうございます」
「彼女の素性とか、貴女との関係とかは、さしあたり伺わないことにします」
「彼女、現場では名前を明らかにされているんですが…」
「そうでしたね…ナカヤマナミ。その部分はカットしておきますよ」
「恐れ入ります」
「ただ、商品化にあたっては芸名をつけておきましょうか。仮決めでもいいので」
「それは私が?」
「ぼくが考えてもいいけど、ご希望はない?」
「そうですね…」
 本名の仲谷愛美をいじって、本名そのものではないが本名を彷彿とさせる芸名−−
 そう思ってナカヤマナミ・ナカヤマナミ…と反復するうちに、閃いた。
「…ナカヤマ…ナミ…というのでは?」
「一文字動かして?…際どいな…でも、いいね」
 冴子が手許の紙に「中山奈美」と書いて見せ、実名すれすれの際どい芸名が出来上がった。これで DVD が焼かれるのだ。
 仮に仲谷愛美を知る者が見れば、彼女に瓜二つ、どう見ても彼女だとしか思えない「ナカヤマ・ナミ」を、愛美自身だと思うだろう。
「それで行くことにしきましょう。タイトルは…」
 諸星が思案顔で少し黙り−−きらりと目を輝かせて、紙に書いた。

       狩られる

「…どう?…ケダモノの群れが 1 羽のウサギを狩るみたいな風情があるでしょう」
 被虐のヒロインを主語にすれば『狩られる』となる−−
「いいと思います。私もウサギ狩りっていうイメージがあったので」
「サブにはこんなのを」
 中山奈美の受難−−と、諸星が書き加える。
 1 週間後を目標に 120 分の DVD に編集することになった。販売先は「楼蘭」の会員限定だ。
「ところで…」
「はい」
「貴女は、彼女…奈美のマネジャー的に動けますか」
「と、おっしゃいますと」
「『楼蘭』のショーの生贄にどうかなと思って。実現したら、彼女へのギャラはもちろん、貴女にも仲介料を出します」
「…ショーに出したら、 DVD も?」
「よく売れるでしょうね。いい収入になりますよ。本人にも、貴女にもね」

 携帯を耳に当てながら、私は気を失ったらしい。
 その臨時ニュースを会社のテレビで見たのと、新聞社から携帯に連絡が入ったのと、ほぼ同時だった。
 夫が X 国に滞在中、取材先の会議場で無差別テロに遭ったのだ。爆弾の側にいたために全身が一瞬で粉砕されたということだった。もちろん即死。彼が苦しまずに済んだのだけが救いではあった−−
 新聞社で夫の遺品を引き取った。遺体は跡形もなく、遺骨も戻らない。通夜と葬儀、それにまつわる諸々の事務や会計は新聞社の総務部が全面的に取り仕切ってくれたので、私は会葬者に挨拶をするだけで済んだ。もちろん、それ以上のことをする元気は全くなかったが−−
 思えばこの 1 年、ろくに会話もしていなかった気がする。彼は家にいないことも多く、いても寝てばかり。セックスレスだったのはもちろん、夫婦としても形だけのものになっていた。だから彼の死で絶望することもなかったが、それでも愛していた人。喪失感は大きかった。
「元気出して…って言っても無理だろうけど…」
 通夜の前から私の側には美奈子がずっとついていてくれた。
「うん…心配かけるわね」
「何言ってんの」
「私たち、 1 年前から別居みたいなものだったのよね…」
「仲谷さん、忙しかったらから?」
「それもあるんだけど…夫婦じゃなくなっていたのよ」
 それで美奈子は察してくれたようだった。
「そう…」
 美奈子は何でも受け入れてくれる存在だ。そう思うとやっと涙が出てきた。
「この際だから、喋りたいことがあったら全部喋りなさいな」
 美奈子に肩を抱かれてひとしきり泣くうち、あのことも喋ってしまいそうになった。
 さすがにそれは踏みとどまったけれど−−

3 再会

 ひとまず喪が明けて、私はまた会社に出るようになった。
 お洒落は控えたが、いかにも服喪中といった装いでは周囲が気を遣うから、白系のブラウスと濃紺のスカートを基本に組み合わせた。私としては地味めの服装だ。
 夫の身のまわりの品々は、一部は私が引き取り、残りは夫の実家に返した。
 夫の車は売却。夫と暮らした家もひとりでは広すぎるので売り、赤の軽もこの機会に手放すことにした。父も母も実家に戻って来いと言ったが、両親と始終顔を合わせるのは辛い気がして、マンションを借りることにしたのだった。
 仲谷家の両親に勧められるまま、千倉姓に戻った。
「千倉さんがまた独身に戻ったとなると、みんな色めき立つなあ」
 男性の後輩がついそんなことを言い、「不謹慎にもほどがある」とたしなめられていたっけ−−
 新しい恋人や、新しい夫。そんな可能性もあるのかも知れないが−−
 私はとんでもない目に遭った身。それを引き摺っていかなくてはならない。次の相手を見つけることなど、考えられなかった。
 葬儀のどたばたのせいで意識せずにいたが、落ち着いてみるとあの日のことがまたしきりに思い出された。あれ以来、彼らからの接触はない。だが、いつか彼らから呼び出されたり、待ち伏せされたりするのではないか−−と気が気ではない日が続く。

 平穏な金曜。その日の仕事を終えようかという夕刻、携帯に電話が入った。
 緒方冴子という馴染みのない発信者名に一瞬戸惑ったが、美奈子の家で電話番号とメールアドレスを交換していたのを思い出した。
「もしもし…」
「愛美さん?…私、緒方冴子です」
「こんにちは。先日はどうも…」
 普段なら「楽しかった」とお愛想を言うところだが、そんな気になれなかった。無関係とはいえ、彼女と知り合ったその日に襲われたのだから−−
「お仕事中だったかしら」
「いえ…もう片付けて、会社を出るところ」
「そう。近くまで来てるんだけど、お茶しません?…時間あるかしら」
「ええ、大丈夫…どこで落ち合います?」
 独身に戻ったので時間はふんだんにある。だが電話でそれは言い出せなかった。
 通い慣れた街だが、その喫茶店は初めての所だった。冴子はもう来ていた。
 気分を前向きにしようと昨日はエステと、さらに美容院へも行ってきた。耳のあたりをすっきりさせたくて、もともとショートだった髪をさらに短くしたのだ。
 それで今日は少しお洒落をしてきている。パールのピアス、薄紫のブラウス、濃紺のジャケットと同系色のシフォンスカート。パンプスは黒。
 脚は−−今日は黒のストッキングに包んできた。ガーターベルト式だ。
 あの日はひどくエロティックなダークブラウンのガーター式を履いていた。誰かに誘惑されるのを期待して−−
『見えないところのお洒落にしては念が入りすぎじゃね?』
『セックスレスの人妻としては、何か期待してたんじゃないのかい』
 あの男たちにはそれを見破られてしまった。
 今日は正真正銘、見えない部分のお洒落だ。結婚してからのことだが、フォーマルな場に赴く時や気分を変えたい時は黒やナチュラルのガーター式を履くことがある。今日もそうなのだ。特別な意味はない−−
 私ったら、どうして言い訳を考えてるんだろう−−
 誰に訊かれているわけでもないのに−−
 あの事件からひと月ほどになるだろうか。夫の葬儀やその後の片付け、転居などで慌しくて淫欲に悩まされる暇もなかった。だからオナニーもずっとしていない。オナニーをすることじたい、考えもしなかった。
 だが今朝ストッキングを履く時、脚の性感帯が目覚めるのを感じたのだ。
 それが引き金となって、全身の感覚が鋭敏になっていくようでもあった。
 ちょうど、冬眠から目覚めた動物が活動を再開するかのように。
 そんな日に冴子から連絡があったのは、何かの因果のような気もする−−
「あら」
 会うなり、冴子は感心したような表情を見せた。
「眼鏡、似合うわね。髪も短くなって、すごく可愛いわ」
「ありがとう…」
 冴子と同じくコーヒーを頼んだ。
「この間はコンタクトをしてたのね?」
「ええ、いつもそうなんですけど…失くしちゃって」
 あの日、気がついたら失くなっていたのだ−−
「でも、眼鏡もいいじゃない。みんなそう言うでしょ」
「…ええ」
「やっぱり…それで、悪い気はしないからしばらく眼鏡っ子でいようっていうわけね?」
「まあ、そんなところです…」
「貴女は自分の素材がいいのをちゃんと承知してるわよね。自分を綺麗に見せる方法もよく知ってる。何でも似合っちゃうみたいだし、羨ましいわ」
「冴子さんだって、すごく綺麗だわ」
 褒められどおしでは居心地が悪いのだが−−
「いいのよ。服装だって、この寒空にシフォンスカートでしょ。お洒落だわ」
 そう言われて、
『だいたい、このスケスケのスカートは何なんだよ。そろそろ冬だってのによぉ』
 不意にまた、あの連中の声が蘇る−−
 しばらく私の装いを褒めちぎられたあと、
「そうだ…ごめんなさい。お悔やみを言わなくては。このたびはお気の毒なことで…」
 美奈子から聞いたのだろう。テレビや新聞で夫の名と勤務先が報じられたから、それで知ったのかも知れない。
「恐れ入ります。御陰様でどうやら落ち着きました」
「そう…名字は仲谷さんじゃなくなったの?」
「旧姓に戻りました。千倉というの…ご存じでしたよね」
 美奈子の家で紹介されたとき、私が千倉電子の社長の娘であることも伝わっている。『こう見えても社長令嬢』だなんて−−
「ええ。それで、今は実家でご両親と?」
「いえ…独りの方がいいので…夫と住んだ家は売って、今はマンションで独り」
「ふうん」
 コーヒーが空くころ、別の場所に誘われた。
「でね、愛美さん。時間があったら、ちょっと案内したい場所があるのだけど」
「…案内?…」
「見せたいものがあって…」
「…何でしょう…」
「来てもらえばわかるわ。今夜、何か予定は?」
「…いえ、特にないのだけど…」
「じゃあ、お願い。今日はそのために来たのよ」
 聞けばそのビルの地下に車を駐めてあるという。言われるままにエレベータに乗り、駐車場に向かった。
「この車なの。乗って」
 それは、どこかで見たような黒のセダン。鍵はかかっておらず、冴子が左の後部座席のドアを開けると、私は半ば押し込まれるように座らされた。冴子は右から後部座席に乗ってくる。
 わけのわからないままに事が進むのは、この間拉致されたときに似ている。
 そうだ−−冴子が後部座席に座るということは、運転するのは冴子ではないのか。
 そのとき初めて運転手がいるのに気づいた。と同時に、その運転手が振り向いた。
「ひっ」
 あまりのことに身体をバウンドさせた。
 振り返ったその顔は、あの夜の主犯。“猛禽類”−−キョウスケだったのだ。
「久しぶりだね、奥さま。あ、いや。もう奥さまじゃないのか」
 続けて冴子が信じられないことを言った。
「弟なの」
 いったい、どういうこと−−
「先日は弟たちがお世話になっちゃって」
 冴子が私の膝に手を乗せ、さわさわと撫でて来た。
「でも貴女もずいぶんお楽しみだったのよねぇ…ふふふ」
「…じょっ…」
「あぁら…無駄よ、とぼけても。私も見てたんだ ・ か ・ ら…」
 何ですって−−
「あの夜、弟たちに貴女をお迎えに遣らせたのは私なの」
 言葉が出てこない。
「貴女がなんだか淋しそうだったので、旦那さんとセックスしてないんじゃ、ってピンと来たの。それで、やりたい盛りのオスたちを差し向けて慰めて差し上げた」
「…どうしてっ?…そんな、ひどいっ!…」
 やっと口が利けた。膝を弄んでいる手をつかんで抵抗した。
「ひどい、って何が?…聞いたわよ。私の思った通りセックスレスだったんでしょう」
「…それは…」
「 1 年分、溜まりに溜まってたんでしょ」
 下卑た表現をされて、手で耳を塞いだ。その手を掴まれて引き剥がされる。
「 30 人の若いオスに後ろから前から犯されて、さんざんよがってたのはどこの誰?…」
「…やっ、やめて…」
 悔しくて涙が溢れた。キョウスケが顔をにやつかせて見ている。
「潮まで吹いてイキまくったよな、奥さま」
「へぇー…貞淑な奥さまで、社長令嬢ともあろう方が潮吹き?…なんて淫乱なの」
「途中で数えるの止めたけど 100 回くらいイッたよな。あんなの初めて見たよ」
「大勢のケダモノに輪姦されて 100 回もイッたの?…呆れた」
「小柄で華奢そうに見えたんだけど」
「いるのよね。一見華奢なんだけどセックスだけは異常にタフな人」
 2 人で私を嬲って楽しんでいるのだ。
「…やめてっ…もうやめて…」
「恭輔、出しなさい」
「オーケー」
 エンジンがかかり、車が発進する。
「…どこへ?…」
「いい所よ」
「…まっ、まさか、また…」
 この間のように、襲われるの?−−
 冴子がほくそ笑みながら私の顔を覗き込んでくる。
「また、あの日みたいに犯されまくりたいのね?」
「…違うわっ!…」
「奥さまは、本当のことを言われると必死で否定なさるよな」
 キョウスケが、あの日と同じことを−−
「安心して。今日はそんなことにはならない…と思う」

 車は JR 山手線のちょうど反対側へ向かっているらしかった。
「こういうものを作ったの」
 冴子がバッグから取り出したのは−− 1 枚の DVD だった。
「これから行く場所で貴女にも見せるわ。それで誘ったのよ」
「…これ、は…」
 あの夜の録画に違いない。
『カメラ、回ってるから。録音もな』
『 DVD とか作っちゃうよ』
 男たちの声がまた聞こえた。
「貴女のいやらしい姿が収められてるわ。それは試作品だけどね」
 見えばレーベルが付いている。刺激的な書体で、こう書かれていた−−

        狩られる〜中山奈美の受難

「いいタイトルでしょう」
 狩られる、というのは−−私が彼らの狩りの標的にされたということか。
 それにしても−−
「貴女の芸名がそれだけど、気に入ってもらえるかしらね」
 手がわなわなと震えた。本名を明かされないのはありがたいのだが、
「…これじゃ、音が同じで…」
 万が一にも私を知る人がこれを見たら−−
 ナカヤマ・ナミはナカヤ・マナミのもじりだとすぐにわかる。
「だから際どくていいんじゃない。それとも本名を出したほうが良かった?」
 何を拒んでも無駄に違いなかった。
「…それだけは…堪忍して…」
「じゃあ貴女はこの世界では中山奈美で決まり。いい名前よね」
「…この…世界?…」
「男たちの欲望を手玉にとる裏のビジネスよ。貴女はそこで鮮烈なデビューをするの」
 それはつまり、私の映像がそういう市場に−−
「その辺のビデオ屋に出回ったりはしないから安心しなさい。貴女の身近な人がこれを見ることはないでしょう。たぶん、ね」
 冴子が私の手からそれを取り上げ、バッグに収める。
「こういうものにいくらでもお金を出す人がいるのよ。男って下劣な生き物よねぇ…」
「それで稼ごうとしてるくせに」
 キョウスケが口を挟む。冴子が笑う。
「…それを買う人って、どんな…」
「そのうちわかるわよ」
「今、教えて」
 自分でも驚くほど強い口調になった。
「あの DVD を誰が販売して、誰が買うのか、知りたいの」
「映像を見ながらオナニーするくらいのことよ。誰が買おうと構わないじゃない」
「構うわ。コピーされて拡散したりネットに流されたりしたら、とんでもないことになる」
「そういう心配はない人たちだけどね」
「心配はないっていう保証があるの?」
 いったん引いていた涙がまた溢れた。
「…私…売り飛ばされたようなものだわ…」
「売り手と買い手がわかったら、どうするのよ」
「…私が買い取ります、全部。買って破棄するわ」
「呆れた。無理よ、そんなの」
 一笑に付された。顔を前方に向けたまま、キョウスケも笑っている。
「困ったお嬢様ねぇ。一本 20 万で初版 50 部だそうよ。好評ならもう 50 部だって」
 耳を疑った。初版で 1000 万円−−追加でもう 1000 万円だなんて−−
「社長令嬢はそのくらいのお金なら自由にできるの?」
 できない。実家にはお金はあるが説明のしようがない。また涙がこみ上げた。
「そもそも版元がマスターを手放さないだろうから、何回でも増刷されるわ。買い占めなんて無理よね」
「…まさか、 1 本 20 万円だなんて…」
「確かに AV としちゃ、べらぼうな値段だな」
 キョウスケも驚いた様子だ。
「そのくらいの価値があるってことじゃない。誇りに思ったら?…貴女にも 10 %は還元されるそうだから」
 出演料−−
「…そんなもの、要りません」
 泣きながらかぶりを振る。それは本心だったが、
「ちょっと、何様のつもり」
 髪をつかまれた。
「これだから苦労知らずのお嬢さまはいやなのよね。生活とか学費のために身体を張って稼いでる子も大勢いるってのに」
 すごい剣幕だ。今のひと言が冴子を怒らせてしまったようだ。
 冴子は弟と二人で苦労してきていると美奈子が言っていたっけ−−
「姉さん、あまり泣かせるな。化粧が落ちるんじゃないか」
 キョウスケのひと言で冴子はちっ、と舌打ちをし、私の頬をハンカチで拭った。
「驚いた…お化粧、薄いのね。同い年とは思えないわ」
「この間おれもそう思った。まったく姉さんとは大違いだ」
 冴子はキョウスケをじろりと睨んで、
「その美貌はね、これまでは自分だけの特権だったけど、これからは商品になるのよ。せいぜいゲスな男たちに消費されなさいな」
「…お化粧、直します…」
 バッグから手鏡を出して映すと、淡いピンク系のアイシャドウが少し落ちていた。
 冴子は私の肩を抱き、さすりながら、
「それじゃ、売り手と買い手くらいは教えてあげましょう」
 会員制秘密クラブ「楼蘭」のオーナーが制作・販売し、そこの会員に限定で販売するのだという。会員は元・会社役員など素性の良い人物ばかりで、クラブの運営にも協力的だということだった。映像が拡散するような心配は確かになさそうではある。
「…秘密クラブって…どんな?…」
「こういうものを制作・販売するくらいだから、見当はつくんじゃない?」
 SM クラブのようなところだろうか−−
 少なくとも、女の性を商品にするところだ。
「まあ、見てみればわかるわ。あと少しでそこに着くから」

4 試写会

 車は古びたビルの奥の駐車場に入った。「昇華堂」という看板で、冴子から聞かされた古書店だとわかる。
 車が停まり、冴子に続いて私も車を降りる。キョウスケは運転席に残った。
 冴子が携帯で話している。
「緒方です。連れて来ました」
 連れて来た、というのは私のことだ−−
 日はとうに暮れている。朝からずっと寒い日だったが、また冷え込んで来たようだ。
 古書店「昇華堂」の通用口の前に来ると、ほどなく扉が開いた。
「やあ」
 奥から 40 代と思しき男性が現れた。オーナーだろうか。身長 175 cm くらい。ヒゲを蓄え、黒縁の眼鏡をかけた、温厚そうな人だ。第一印象としては−−
「彼女です」
 紹介されて、戸惑いながら思わずお辞儀をした。
「…はじめまして…」
「ほら、名前は?…芸名でね」
 冴子に促されて、
「…中山です…」
 そう言うと、
「フルネームで」
 男性に言われた。命令される筋合いではないはずなのに−−
 だが、抵抗するほどのことでもない。上目遣いで彼を見ながら、
「…中山奈美です…」
「ふふ…いいね、その目線。ぐっと来るよ、奈美。私はオーナーの諸星」
 握手を求められて、応じる。
「あの DVD を編集してくださったのよ」
 ということは−−諸星はあの夜の出来事を映像で見ている。私の本名も知っている。
「髪を切って色気が増したな…眼鏡もよく似合うじゃないか」
「奈美?…ほら、コートを着たままじゃ失礼じゃなくて」
 諸星ばかりか、冴子もついに私を呼び捨てにし始めた。私の“芸名”で−−
「…失礼しました…」
 そう言ってコートを脱ぐ。薄紫のブラウス。濃紺のジャケットと同系色のシフォンスカート。黒のストッキングに黒のパンプス。冴子に褒めちぎられた装いだ。
「ふむ」
 諸星の視線が私の全身を舐めている−−
 彼に対してどんな態度を取ればいいのかわからない。弱みを知られているのは間違いないが、妙にへりくだれば奴隷のようにも扱われかねない。
「すばらしい…そそるねぇ」
 初対面の男性にじろじろ見られるのには慣れているほうだが、面と向かって「そそる」などと言われたのは初めてだった。それでつい、後じさりした。
「何してるの?…ちゃんと見てもらいなさい」
 冴子が言い、また背後から私を突き出すと、
「ジャケットを脱いでごらん」
 と、諸星。冴子がほら、と促してくる。
 店頭は寒かった。ここでジャケットを脱ぐ理由は思い当たらない。
「…なぜです?…」
 不本意だという意志は伝わったはずだったが−−
「身体の線を見たいからだよ」
「…それなら、ビデオで十分ご覧になったのではありませんか」
 諸星が目を丸くしている。もっと従順で扱い易い女だと思っていたのだろう。
 不意に肩を掴まれると、頬に冴子の平手打ちがきた。
「…っ…」
「そんな反抗的な態度を取れる立場なの?」
「…立場って、何ですか」
 涙がこみ上げてくる。そう言うのがやっとだった。
「諸星さんはプロデューサーで、あんたは売り出してもらう新人女優だわ」
「それじゃ、貴女はさしずめ私のマネジャーだって言うの?…そんなこと頼んでないわ」
「まあまあ」
 諸星が割って入った。
「可愛いとか貞淑そうなだけより、活きが良くて結構だよ」
 その口調は、皮肉というよりも面白がっているようだ。
「恥ずかしい姿の一部始終を俺に見られてるのは承知だな?」
 無言で返す。それは間違いないけれど−−
「…非道い目に遭わされはしましたが、私に落ち度があったわけではありません」
 だから貴方に対してへりくだる理由はない−−
「心が折れてはいないというんだな。気丈なことだ。いいだろう」
「申し訳ありません」
 冴子がマネジャー気取りで勝手に詫びる。
「では改めてお願いするよ。俺は美人のブラウス姿が好きなんだ。ぜひ見たい」
 今日来ているシルクのブラウスは生地が薄い。至近距離では肩や二の腕の線、ブラの紐などが透けて見える。それで気が進まなかったが、
「…そこまで仰るのなら…」
 裸になれと言われているわけではなし、従うことにした。
「上着を脱ぐだけなのに、その恥じらいよう。いいよ、奈美」
 諸星が私に近づいて、うなじからバスト、腰、脚と至近距離で観察してくる。
「…あの…」
 あまりにあからさまな行動に戸惑う。
「着衣の状態でエロスがむんむん匂い立ってる。これじゃ周りの男がたまらんだろうな」
 諸星に見つめられているうち−−
 私の体内にむらむらと湧き起こってくるものがあった。
「…それじゃ、緒方さん」
「はい」
 突然、両腕を取られて後ろ手にねじり上げられた。
「…あっ!…つ、うっ…」
 諸星の手から冴子の手に縄が渡され、手首にかけられる。
「…なっ、何を?…」
「縛るのよ」
 くくく…という諸星の含み笑い。手首を戒めた縄はさらに乳房の上下にかかる。冴子と諸星に抑えられて、抵抗はできない。
「よく似合うぞ。ここではモデルは縛られたまま過ごすんだ」
 モデル?−−
「…何のことです?…」
 もがいても、上半身は自由になりはしない。
「それはあとでゆっくり話す。まあ、しばらく大人しくしていてもらおうか」
「…冴子さんっ!…私を連れてきたのは、 DVD を見せるからだって…」
「もちろん、見せてあげるわよ。貴女にもね」
 私にも?−−
 他に誰か?−−
 縄尻を取られて追い立てられる。
「…いやっ…」
 店の奥の扉が開くと、地下へ通じる階段。
「天国へ通じる階段よ。下りだけどね」
 立ちすくんでいると背後から押された。のめるようにして、私は階段を下り始める−−
 地下の壁はコンクリートが剥き出しの、殺風景なもの。
 奥に人の気配がする。
 諸星、冴子とともに、階段に近い一室に入った。そこは 6 畳ほどの細長いスペースで、パソコンや録画・録音の機材らしきものが整然と並んでいた。
「この調整室で DVD の編集をするのよ。貴女の DVD もそう」
 勝手知ったるという口ぶりで冴子が言う。
「今日はそのお披露目をするの」
 お披露目?−−
「つまり、『狩られる』の特別試写会」
「…何ですって…」
 唇がわなわなと震える。
「見るか」
 部屋の奥に連れて行かれた。そこはガラス窓になっている。
「マジックミラーだ。向こうからは見えない。安心して、かぶりつきで見ていたらいい」
 薄暗くて隅々までは見えないが、そこには意外なほど広い空間があり−−
 私は目を見張った。人の気配どころではなく、数十人の男女が談笑していたのだ。
 正面中央には大型のスクリーン。立ち働いているのは男性のスタッフらしい。その他はみなスクリーンの方を向いてソファに座り、グラスを口に運んでいる。
 スクリーンには−−

      『狩られる〜中山奈美の受難』 特別試写会

との表示。
「大入りだ。予告は先週からしておいたんだが、予想外に集まった。 28 歳人妻ってのが受けてるんだと思う」
 男性が 30 人ほど談笑していた。確かに、会社役員などしていそうな中高年が多い。
「お客の相手をしているのはうちの M 女たちだ」
 華やかなドレスを着た女性が 5 人ほど男性客の間に侍り、水割りを作ったり、談笑の相手をしたりしている。
「ショーに出ない日はああやって酒の相手や、客の性欲の処理をする。慣れてきたら奈美にもやってもらうが、当面はモデルだな」
 大勢の男女が私の映像を見物するところを、私は見せられるのだ。
 私の恥ずかしい映像を−−
 それだけではない。諸星は私のことを「モデル」だと言った。
 モデルとは、ショーに供される生贄のことに違いない。
 今日、この試写会の後で私は引き摺り出され、またしても陵辱されるのでは?−−
 だから、こうして縛られているのだ−−
 ドクン。
 私の中で、あの日と同じスイッチが入る。
 今朝、全身の性感が息を吹き返すのを感じたのが、この前触れだったかのよう。
 しかも昨日はエステと美容院へ行ったばかり。私の身体は磨きたてだ。
 ああ−−
 あの日の災厄が、次の災厄を招いていたなんて−−

 千倉電子社長・千倉潤三は胸騒ぎを抑えられなかった。
 社長仲間に紹介されて「楼蘭」の会員になったのが 1 年前。入院して遠ざかっていたが、退院したのを知った諸星が「特別試写会」の通知を寄こした。そのタイトルにある女の名を見て以来、落ち着かない日が続いている。結婚していた愛娘の名を想起させるからだ。しかも 28 歳人妻という触れ込み−−考えまいとすればするほど、娘のことだとしか思えなくなってくる。
 夫が不慮の死を遂げ、愛美は家に帰ってくるものとばかり思っていた。不謹慎を承知で、夫の不慮の死を内心喜んでもいた。ところが−−愛美は家には寄りつこうとせず、独りで部屋を借りて暮らし始めてしまった。理由を訊いても答えようとはしない。
 何かあったのではないか−−そう気を揉んでいたところへの通知だった。
 奈美という女がケダモノの集団に陵辱されている現場を録画したものだという。赤の他人の受難であれば自分の快楽のタネであるが、愛する娘のこととなれば別だ。
 まさか、自分の娘がそんな事件に巻き込まれることは−−
 否定しようとしつつも、愛美はいつかそんな目に遭うのではないかと危ぶんでいたのも確かだった。男の視線を引き付けて止まない、性のオーラとでも呼ぶべきものを愛美の肢体が発散しているのを、潤三はよく承知していたのである。
 退院後もしばらくは酒類を控えるように言われているが、今は何か飲まずにはいられず、水割りを口に運んでいた。
 午後 8 時である−−
 諸星はしばらく広間と調整室を行き来していたが、やがて操作盤の前に座った。
「お待たせしました。定刻となりましたので、これより始めます」
 諸星がアナウンスすると、待ってました!…と声がかかる。
「まず初めにお断りいたしますが、持ち込み映像でございまして、映りの良くない箇所もあります。鋭意努力して編集いたしましたが、お見苦しい部分はどうかご容赦ください。その辺を差し引きましても、モデルが非常にいいので必ずや皆様にご満足いただけると確信しております」
 やがて画面が切り替わり、 DVD 映像がスタートした−−

 刺激的な書体の『狩られる』というタイトルが消えると、画面に愛美の顔のアップ。
 手首を縛られて吊され、これから始まる生き地獄を思って怯える愛美。
 それにオーバーラップする形で、泣きじゃくる愛美が現れる。
 スローモーションでかぶりを振る。涙が散っている−−
 キャプション−−

   中山奈美は 28 歳の人妻。子どもはない。
   ある晩秋の土曜、友人宅を訪問し、ひとり車を運転して帰る途中だった。
   赤の軽自動車が、運悪くケダモノたちの目に止まった。

 画面は一転して拉致のシーン。獲物を追い詰めるような、聞こえよがしのエンジン音。愛美の車を中心にしたスポーツ車や改造車、バイクの隊列。

   ケダモノたちは“応援”を呼んだ。
   こんな上玉には滅多にありつけない。
   だから絶対に逃がすまいと。
   一人一人の分け前が減ることになろうとも。

   車 10 台、バイク 12 台で集結したのは−−
   23 歳から 25 歳までを中心に、 30 人もの飢えたオス。

 画面は造成工事現場の倉庫前。愛美の車は暴走族の車とバイクに囲まれている。
 やがて運転席のドアが開き、愛美の右脚がおもむろに降ろされた。ダークブラウンのストッキングに包まれた脚。その美しさにそそられたのか、口笛が鳴る。
 外からドアを引かれ、左脚も降ろす。車から降りた愛美は両脚をそろえ、両手は後ろに回し、もたれるようにしてドアを閉める。ライトの眩しさに顔を背ける愛美。

   カーディガンにブラウス、シフォンスカートにパンプス。
   奈美のフェミニンな装いが若いオスどもの悪意と劣情を掻き立てる。

 後ろに回した愛美の両手首を恭輔の片手ががっしりとまとめて掴む。必死にもがき、脚をもつれさせながら、愛美は倉庫に追い立てられていく。
 倉庫の中。突き飛ばされた愛美は雄太に受け止められると、カーディガンを剥ぎ取られる。現れたのはフリルのついた黒のノースリーブブラウス。また口笛が飛ぶ。
 愛美の両手が前にまとめられ、縄がかけられる。もがく愛美を制して、雄太が手首に縄を巻いていく。手首の縄は滑車へ結わえられ、愛美の身体が吊されていく。パンプスの爪先が辛うじて床に着く高さ。
 愛美の嗚咽が響いている−−

   オスどもは奈美をいきなり犯したりはしなかった。
   上等の獲物を十分に味わうため、まずは“準備運動”からだ。
   奈美にとっては地獄のような、性の儀式が始まった。

 まず上半身、次に下半身を、次第に裸に剥かれながら蹂躙されていく愛美。
 スカートを落とされ、左脚を吊される。
 恭輔のクンニリングスが始まったところで、愛美はあえなく絶頂する。

   絶頂: 1 回

 画面の右隅にカウントが入った。
 アヌスも舐められながらの「寸止め」数回の後、今度は失禁しながらの絶頂。
 場面は少しスキップして、雄太にアヌスを犯されるところ。カウントは

   AF: 1 名  絶頂: 5 回

 その状態で恭輔の指が秘裂をまさぐる。愛液が滴り落ちる。
 そして潮を吹きながらの絶頂−−

   AF: 1 名  絶頂: 6 回  潮吹き: 1 回

 強制絶頂は続く。そして−−カウントが

   AF: 1名  絶頂: 20 回  潮吹き: 15 回

となったところで、恭輔が愛美の前を犯す。

   FUCK: 1名  AF: 1名  絶頂: 20 回  潮吹き: 15 回

 ここまで約90分。輪姦が始まったところで映像はテンポアップする。
 前後から二本刺しにするシーン。 2 人の厚い胸板にサンドイッチにされて悶え苦しむ愛美のアップ。男たちが咆哮しながら交互に射精するシーン。全身をひくつかせながら絶頂する愛美。しぶく愛液−−画面がくるくると切り替わるように編集されている。
 まさに「輪姦す」という表現がぴったりだ。
 それに伴ってカウンタも几帳面に、目まぐるしく変わっていく。

   FUCK: 10 名  AF: 7 名  絶頂: 32 回  潮吹き: 21 回
   FUCK: 20 名  AF: 12 名  絶頂: 43 回  潮吹き: 28 回
   FUCK: 30 名  AF: 16 名  絶頂: 55 回  潮吹き: 33 回
   FUCK: 40 名  AF: 18 名  絶頂: 67 回  潮吹き: 40 回
   FUCK: 50 名  AF: 21 名  絶頂: 77 回  潮吹き: 46 回
   FUCK: 60 名  AF: 23 名  絶頂: 90 回  潮吹き: 50 回
   FUCK: 70 名  AF: 24 名  絶頂: 99 回  潮吹き: 55 回

 バケツの中に無造作に放り込まれた、夥しい数のコンドーム。作品は終盤だ。
 床に敷かれた小汚いマット−−そこで、愛美が犯されていた。
 無残な姿だった。ブラウスは引き裂かれ、ストッキングはあちこち伝染したうえ、唾液だか精液だかわからない液体にまみれてぬらぬら光っている。髪は乱れ、頬には涙の跡が幾筋も残っている。

   いつ終わるとも知れない輪姦。
   ケダモノたちの暴走する欲望は加減というものを完全に失っていた。
   だが奈美の肉体は、健気にも彼等を受け入れ続けるのだった。

 物語はエンディングに向かう。カウンタは無情に数字を刻んでいく−−

   FUCK: 80 名  AF: 25 名  絶頂: 111 回  潮吹き: 55 回

 エンドロールも何もなく、映像は唐突に終わった。
(なんということだ…)
 千倉潤三の両眼から、涙が滂沱として流れ落ちていた。
 紛れもなく、わが愛する娘だった。
(だから言ったじゃないか。赤い車は危ないって…)
 今となっては取り返しのつかないことだ。愛美に押し切られる形だったとはいえ、買い与えたのは自分なのだし−−
 それに−−
 愛美がこんな災難に遭うことを妄想していたのも確かだったのだ。
 溢れる涙は悲しみから来るのではない。妄想が現実となった衝撃と、愛する娘の神々しくさえあるエロスに感動しているのだった。一物が久しぶりにいきり立っていた。
(俺は、人でなしだ)
 実の娘が陵辱されるシーンを見て欲情する父親が、どこの世界にいるだろうか。
 潤三はいま認めざるを得なかった。自分が娘に欲望を抱いていたことを−−

5 デビュー

 なんとエロティックなのだろう。
 がっくりと後ろに折れた頸から髪が垂れ、イヤリングがキラキラと揺れる。
 苦悶と喜悦の涙が頬を濡らしている−−
 我ながら、いや、自分だとは思えない、凄惨な美しさだった。
 私は縛られているのも忘れ、自分が陵辱される映像に見入ってしまっていた。
「信じられない。あんなにイケるものなのかしら…とんでもない数だわ」
 冴子が言った。それで、傍らに冴子がいることを思い出した。
「大した女神さまよね」
 そう冴子に言われて、
「…え?…」
「貴女を陵辱するはずのオスどもが、逆に翻弄されてたじゃない。まるで貴女にご奉仕してるみたいだった」
 言葉を返せずにいると−−
 広間に照明が点った。場内にざわめきが戻る。
「お楽しみいただけましたでしょうか」
 諸星が正面のステージ横に立つ。マイクの音声は調整室にも入ってくる。
「可愛いねぇ。小柄だが脚が長くて、可憐で、ついでに貧乳で」
「で、貞淑な人妻然としていたのが、さ…」
「そうそう」
 客たちが好き勝手に発言し始めた。
「どうして、あんなにタフなんだろうな。ガチで犯ってるんだろう」
「ガチもガチ。あいつら、自分らが暴走してんのは承知で、それでも止まらないんだよ」
「無茶しまくりだ」
「その無茶によく堪えたよな、奈美ちゃん。エライよ」
「途中から、男たちのほうがへばってたんじゃないか」
「そうそう。 30 人もいたんだろ。やりたい盛りのオスが」
「 30 人でかかっても敵わないってか」
「人数じゃないんだろうな。奈美って子は、そこにペニスがあればあるだけ受け入れる」
「女神さまだな」
 冴子と同じことを−−そう思ったとき、
「でもな、後半のマワシのシーンより前半のほうが俺は良かったよ」
 そんな感想が上がった。
「性感責めに泣いてるところや、寸止めで悶絶しかけたり、潮を吹きながらびくびく痙攣したり。身体の反応も良すぎるし、苦しむ表情がエロすぎてたまらん」
「まさか犯りながら演出してたわけじゃないよな」
「正真正銘、実録ですので…私も同感です。なんと言ってもヒロインの手柄です」
 話を振られた諸星が参加する。
「この手の映像を何本か見たことがありますが、ことごとく加害者の欲望ばかりが前面に出ていて、ヒロインの美しさが感じられることはありませんでした。集団レイプってのはそういうものでしょう。だが、本件はそうではなかった。編集する前から映像作品として成立していました。奈美が美しいのは、陵辱されるときも綺麗でいようという M 女の矜持みたいなものを守ってるからだと思うし、オスどももそれをよく引き立てた」
 客たちが納得する気配が伝わってくる。
「陵辱されながら M のオーラがどんどん強烈になっていくんですよね。だから中山奈美をプロデュースするなら、心身とも蹂躙しながら欲望をひん剥いてやるに限る」
 私の欲望を−−ひん剥く−−
「そのためにはこの『楼蘭』のショーはうってつけだと思いますね。 30 人に輪姦されるよりも過酷な性の拷問を加えて、悲鳴と快楽と…愛液を…絞り取ってやるのです」
「…っていうことは昇華堂さん、彼女はショーに出るんだな?」
「もちろん」
「ほんとか。そりゃすごい」
「デビューはいつだい」
「それですが…皆さん、今夜はまだお付き合いいただけますか」
 来た−−
「引き続き中山奈美の初舞台を始めたいと思いますが、いかがでしょう」
 おおお、というどよめきと共に、一斉に拍手が鳴り始めた。
「こんなこともあろうかと、奥の間に待機させてあります。では登場させましょう」
「行くわよ」
 冴子に縄尻を取られていた。
 調整室からステージ横へ直接出る扉がある。冴子がそれを押し開く。
 広間の奥は暗がりだが、ステージは眩しいばかりにライトアップされている。
 冴子に引き立てられた私は後ろ手に縛られたまま突き飛ばされた。
「…きゃっ!…」
 つんのめり、脚がもつれた。そのまま床の上に倒れた。
 どむ、と音を立てて扉が閉じる−−
「…『狩られる』のヒロイン、中山奈美です」
 拍手は止み、場内は気味が悪いくらいに静まりかえった。
 上半身は薄紫のブラウスの上から後ろ手に縛られている。濃紺のシフォンスカートの裾からは、黒のストッキングに包んだ脚が露わになってしまっている。
 暗がりの中から客たちの視線を感じて、私は壁へ後ずさった。上半身を辛うじて起こし、両脚は「く」の字に折り曲げ−−
 数名の男が左右からやってきて私を立たせる。
「…い、いや…」
 床から高さ 50 cm ほどのステージ。縄尻を取られてそこへ上げられた。
 滑車が降りてきて、私の両腕を戒めている縄はそこに結わえられた。
「…あっ!…」
 からから…と滑車が回り、私は後ろ手に縛られた姿勢のまま、爪先立ちにさせられた。客たちからの視線を避けようとして俯いていると、
「皆さんに顔をお見せしろ」
 諸星に顎を取られ、客席の方を向かされる。
「いいねぇ」
 客たちが数名席を立って私に近づいて来る。
 おおむね 60 歳前後で父と同年配だが、もっと高齢の男もいるようだ。
「これで 28 歳かね。 25 歳くらいに見えるぞ」
 私のふくらはぎから至近距離に彼らの顔がある。
「ビデオでも見たが、ほんと小柄で華奢そうじゃないか」
「これで若いオス 30 人を食い尽くしたとね」
 それぞれ地位も身分も高そうな人たち。だが、ひひひ…と下卑た笑いを立て、私の脚から顔まで舐めるように視線を這わせるあたり、あの日の連中と大して変わりはない。
「綺麗な脚をしとるじゃないか」
「ちょっと触らせてもらっていいかね」
「どうぞ」
 諸星に了解を得て、客たちが手を伸ばす。ふくらはぎに何十本かの指が来た−−
「…あっ…」
「いい声だ」
 黒のストッキングの上から淫靡なタッチで指を這わせてくる。
「ビデオでは濃いブラウンだったかな。今日の黒いのもまたセクシーだわい」
「このヒラヒラのスカートもな」
 指が膝から太腿へ上がってくる。
「…いっ、いや…」
 私は肩に顔を押しつけ、身をよじる。
「奈美ちゃんは脚が敏感なんだろう」
「ビデオでばれちまってるからなぁ」
 そう言われて、
『奥さまは、オミアシがずいぶんと敏感なようで』
『ストッキングがまたエロいよなあ』
『こうやって犯されたくて、ストッキングで誘ってるみたいだな』
 あのときの男たちの言葉がまた蘇った−−
「あんな目に遭っておるのに、相変わらず男を誘うような恰好をして…懲りないやつ」
「奈美ちゃんは根っから好きなんだろ」
「…ちっ、違いますっ…」
 思わず、声を荒げた。
「ムキになってるぞ」
「ビデオと同じだ」
 ぎゃははは…と、嘲笑。こういうところもあの連中と変わらない。
「それでは、このあたりで」
 調子に乗って私の脚をなで回す客たちを諸星が制した。
「ここからカメラを回しますので…」
 えっ−−
「本格的にやるんだな?」
「期待しとるよ」
「お任せください」
 またビデオに撮られるのだ。それがまた DVD に焼かれて商品となる?−−
 がららら…と車輪の回る音。 2 台のワゴンに大きめのトランクが載せられ、ステージ横へ付けられた。トランクの蓋が開くと−−
 さまざまな小道具がびっしり。見たこともないものばかりだ。
 ただ−−それらが何に使われるのかは、はっきりしている。
「あの夜は小道具なしで、男の数に任せただけのものだった、が…」
 諸星のよく通る声が場内に響く。
「ここではいろんなオモチャで楽しませてやるから」
 十数名の男がステージに上がって来た。揃いの黒の T シャツを着ている。
 「楼蘭」のスタッフ−−つまり、陵辱ショーのプロ。
 女を責めることには慣れているのだろう。あの夜の連中のように昂奮を露わにはしておらず、むしろ冷静だ。私を料理の材料のように見る視線に、背筋が凍り付く。
「…い、いや…」
 ジジジジジ…という音。私の目の前で 7 、 8 名の男が両手を掲げている。
 その手には−−木綿の白い手袋。ただし、ただの手袋ではなさそうだった。
「…あっ、ううっ!…」
 不意に脇腹に触れられて私はびくん、と弾けた。
 手袋の指の部分に極小のローターが取りつけてあるのだ。それが電気で蠢動する。
「…いや、あッ!…うっ!…」
 別の男の手がふくらはぎに来た。そして−−他の男たちの手も、私の両脚に一斉に伸びてきた。
「…やめ、てッ!…」
 逃れようとする前に足首をがっちりと捕らえられた。その足首にも、ふくらはぎにも、膝にも、そして太腿にも、ローターを仕込んだ手袋が這い回る。
「…はうっ!…」
 背後から伸びた手に乳房を掴まれて仰け反った。その手も手袋をはめている。
 脚から、乳房から、ジジジジジ…という蠢動音が私を包み、追い詰めていく。
「なんだかいやらしい匂いがしてきたぞ」
 耳許で囁かれた。そして、ピアスごと耳たぶをぱっくりと咥えられる。
「…う、あッ!…」
 うなじにも、頬にも、キスを浴びせられる。やがて唇も奪われ、舌を吸われた。そこで立っていられなくなり、がくりと崩れた。
 全身を苛んでくる性感に身悶えていると、不意に顎を掴まれ、口をこじ開けられた。
 嫌な予感がして目を開くと、小さなグラスに薄桃色の液体が満たされている。
 薬?−−
 力ずくで私に飲ませようとしている。と、いうことは−−
 それを飲めば、私には決してありがたくない何事かが起こるはず。
「心配するな。ただの媚薬だ。飲め」
「…っ…」
 媚薬−−
 拒もうとする間もなく、喉奥まで一気に注がれた。
 そして今度は上下の顎を力ずくで塞がれ、鼻もつままれた。
 かぶりを振って抵抗したが、無駄だった。何かの果汁の味がするその液体は、私の意思に逆らって胃の腑へ落ちていく。口と鼻を解放されると、激しく咳き込んだ。
「次、いくぞ」
 まだ、何か?−−
 脚と乳房から男たちの指が離れた。だが足首は掴まれたまま。
 カチャ、とガラスか金属の触れあう音。その音には心当たりがあった。医療系の音とでも言おうか。またしても嫌な予感がして、音の方へ目をやると−−
 注射器が用意されていた。そのシリンダには、今度は無色透明の液体。
「…何をするんですっ…」
「注射するんだよ」
 客席から嘲笑が漏れた。客たちは知っているのだ。その注射液のことを。
 無駄とわかっていても身をよじらずにいられない。怪しい薬剤に決まっている。
「感覚増幅剤と言えば、わかるかな」
 その意味を理解するまで、時間は要らなかった。
「これを打つと全身の皮膚感覚が数倍に高まる。風が吹いても感じるようになるぞ」
「…まっ、待ってッ!…私は…」
 思わず訴えた。
「…私はっ…」
「私は、何だね」
 もともと全身が敏感で−−とは、恥ずかしくて言えなかった。
「私はもともと、全身がビンカンなの〜」
 客のひとりがおどけて言い、場内に爆笑が起こった。
 そうだった。彼らは私の恥ずかしい映像を見ているのだ。
「その敏感肌に油を注ぐように打つからいいんじゃないか」
 足首をたくましい手に掴まれ、両脚は 60 度ほどの角度に開かれている。ステージの床に爪先が着くだけの不安定な姿勢のまま、私はもがいた。注射器が近づく。
 そのときだ。
 ド、クッ!…
 強烈な心臓の拍動とともに、下腹部に異常な感覚が湧き起こった。
「…うっ…」
 その感覚は子宮のあたりを源に、膣口へ向けて伝搬していった。やがて女性器全体が火照り出し、熱いものがこみ上げてくる。秘裂が急速に潤ってきて、しっかり締め付けていないと液体が滴り落ちそうだ。
 それは、実はよく知っている感覚−−淫欲だった。だが信じがたいほど巨大。
 全身の性感帯を責められて、むらむらと沸き立つものに苦しんでいた。だが、そんな芽生えのような淫欲などあっけなく呑み込み、猛烈な勢いで発達して、中から私自身を苛んでくる。恐ろしく質の悪い異性物を孕んだよう。
 ド、クッ!…ド、クッ!…ド、クッ!…
 強い拍動が続き、胸が痛い。体温も上がってきた気がする。
「…ああっ…うう…」
 全身の汗腺が開いて汗が噴き出る。ブラウスやストッキングが汗に濡れていく。額には冷たい汗が滲み出し、鼻の脇や頬を伝い始めた。
「…ああ、あっ!…」
 とてもじっとしてなどいられない。だが腕や足首を押さえつける何本もの手を振り払うことはできず、太腿をぎゅっと閉め、ツイストを躍るような動作をすることとなった。
「いやらしいダンスだな、奥さま」
 私の悶え苦しむさまが嘲笑を呼んでいる。でも、そんなことを気にしていられない。
「効いてきたようだな」
 さっき媚薬を飲ませた男が言う。これが、媚薬というものの作用−−
「…ひっ…」
 まだ、あった。
 クリトリスが−−これまで感じたことのないような固さに充血していた。おそらく包皮が剥けて本体がショーツの生地に触れている。腰を動かすと、最も敏感な神経の固まりが生地に擦れる。気が遠くなりそうな痛みと快感が脳天まで貫いてきた。
「…ひいいーーッ!…」
 クリトリスを守ろうとすれば動かずにいなければならないが、それは無理だ。
「…たっ…助けてっ…」
 薬が分解されるまでこの作用は続くのだろう。それでも救いを求めずにいられない。
「ちょっと効き過ぎじゃないか、ズミさん」
 媚薬の男はズミと呼ばれているらしい。薬物担当なのか。
「ちょっと多めに盛ったのは確かだが、それにしても感じすぎだな」
「じゃ、奈美の体質ってことだ」
 普段から薬の類は飲まないようにしているから、飲めば覿面に効くほうだ。それに、胃が空っぽであるのも良くなかったかも知れない。
「この奥さまみたいに欲求を溜め込んでいると、増幅するのかもな」
 ぎゃははは…と爆笑。
 不意に吐き気がして、
「…げ、えっ…」
 堪える間もなく、吐いた。出たのは胃液だけ。涙で視界が霞んだ。
 ズミがすかさず私の口を拭い、うがいまでさせてくれた。他の男たちは床を清める。
「…ごめんなさい…」
 つい、謝った。そうしている間にも、淫欲は膨れあがる一方。
 諸星が私のおとがいに手をかける。
「それじゃ…改めて感覚増幅剤をお見舞いしよう」
 やはり注射をするのか。媚薬だけでこんな状態なのに−−
「…もう…もう、たくさん…やめて…」
「もう注射器に入ってるんだよ。打たないと無駄になるだろう」
 私が激しく身悶えるので人手が増えた。足首だけでなく膝や腰にも彼らの手が来て、押さえつける。いくらもがこうとしても、ぴくりとも動けなくなってしまった。
「楽しい夜になりそうだな、奈美」
「…うう、うっ…ゆる…」
 諸星が注射器を手に近づいてくる。
「どこがいいだろうな?…」
 どこ、とは−−注射する部位のことか。
「腕じゃつまらんし…尻でもないな…」
 それは言ってみているだけだ。諸星はもう、狙いを定めている−−
「脚だな」
 予想が的中した。シフォンスカートがまくり上げられる。
「ほほう…今日もガーター式なのか。感心感心」
 口笛が鳴った。
 ああ−−
 あの事件の日といい、今日といい−−
 お洒落をと思ってガーター式のストッキングを履けば、辱められる巡り合わせだ。
「人妻の欲望がムンムンと立ち上ってるようだぜ…」
 お客に見せるためだろう。諸星は私の左後方に回って身をかがめ、注射器を構えた。右太腿を狙っている。
 アルコール消毒。内腿−−ストッキングの縁のすぐ上の、柔らかい部分だ。
 恐る恐るそこへ目をやると、諸星と視線が合った。
「動くなよ」
 ぶすり。
 乱暴に突き刺された。
「…あっ、うっ!…」
 痛みに仰け反ろうとしたが、そんな時にも微動だに許されない。
「薬、入れるぞ…」
「…あ、あ…」
 入ってくる−−忌まわしい薬剤が、私の太腿に−−
 注入が終わると、今度は慎重に針が抜かれた。
「…うう…」
 下腹部は相変わらず媚薬で火照っている。
「媚薬の効き目がいいようだから、感覚増幅剤もサービスしておくか」
 怯える間もなく 2 本目が来た。今度は左の太腿だった。

「…ああ、ああーーッ!…」
 一体どれくらいの時間が経ったのだろう−−
 媚薬を飲まされ、左右の太腿に感覚増幅剤を注射されてからも、男たちの指で全身を責め苛まれる状況は変わらなかった。彼らはちょうど 10 人。全員ローターを仕込んだ手袋をはめ、私の脚に、乳房に、脇腹に、淫靡な刺激を加え続けている。
 私は後ろ手に縛られたまま、ブラウスをはだけられ、ブラジャーは切り取られて、肩も乳房も剥き出しにされていた。汗でびしょ濡れになったブラウスは背中で無造作に丸められている。スカートは落とされ、ガーターベルトも外されたが、ストッキングとショーツはまだ残されている。
 足首にはいつの間にか縄が掛けられ、左右に引かれていた。両脚を内側に折り曲げることはできるが、太腿をよじり合わせることはできない。
 全身は汗でぐっしょりと濡れ、苦しさにかぶりを振れば顔じゅうの汗が周囲に散る。
 縛られて全身の性感帯を弄ばれるのはあの日と同じだ。だが今日の相手は飢えたオスの群れではない。女の官能を高める手管に精通したプロ−−性の拷問官に違いなかった。私がどこをどういじられると辛いのかを、まるでずっと前から知っているかのよう。しかも蠢動する手袋をはめている。
 そして媚薬と感覚増幅剤のせいで、私の性感は体内からも激しく燃え上がっていた。
 媚薬の作用は鎮まる気配もなく、私の下腹部で淫欲を煮えたぎらせている。愛液が溢れるのを堪えていられたのはものの数分だっただろう。私はいつしか秘裂を締め付けておく気力を失い、熱い液体が滲み出て内腿を伝い落ちている。
 そして−−
 「風が吹いても感じる」と聞かされた感覚増幅剤の作用も、恐ろしいものだった。
 最初は左右の内腿に感じた鋭い感覚だった。そして−−
 太腿全体にザワリ、と、まるで無数の蟲が蠢くような感覚。その蟲は微細な棘で身を包んでいて、私の肌の、表皮から薄皮一枚というあたりを蠢いている。
 その感覚は太腿から脹ら脛、脇腹から乳房へと、波紋を広げるように浸透していった。下腹部にもそれは当然襲ってきたが、媚薬の作用の苦しみが勝り、蟲たちの存在感は他の部位ほどではない。
 こうした忌まわしい感覚にしても、蠢動する手袋にしても、それひとつで気が変になりそうなもの。それなのに、今はそれらが束になり襲いかかって来ているのだ。
 感覚増幅剤の上半身での作用の頂点は乳首にあるようだった。固く充血した乳首に手袋の蠢動が触れるたび、私は絶叫していた。こんなに乳首の性感が辛いのは経験がない。
「…ひいいッ!…い、やっ…あぐっ!…」
 さんざん高められながら解消を許されていない淫欲が、解放を求めているのだ。
 思えばひと月もの間、オナニーをしていなかった。する気が起こらなかったからだが、意識しないところで淫欲は溜まりに溜まっていたに違いない。
 解消する方法はひとつ。絶頂に達すること。
 だが男たちは私の性感を責め苛むだけで、むしろ絶頂させまいとしているようだ。
 それなら、自力で−−いつしか私は、痛むのを承知で、クリトリスをショーツに擦りつけるような動作をしていたようだった。
「奈美、腰が動いてるぞ」
 無我夢中で全身の性感と闘っていた私は、諸星の声で我に返った。
「…っ…」
 目を開けると、諸星が新しい責め具を手に私を見下ろしていた。
「そこにはまだ何もしていなかったからな」
 彼が手にしているのは電動按摩器。それで私の秘部を狙っていた。
 経験したことはないが、その過激な振動は想像がつく。
「…いっ、いやっ…」
「いやじゃないだろう。ここを責めてもらいたくて腰をくねらせてたんじゃないのか」
「…そ、そんなっ!…」
 そんな恥ずかしいことは−−
「こっちはずっと見てたんだぜ」
「腰が『の』の字を書いてたじゃないか」
 ひひひ…と客席から嘲笑。
「脚の間には恥ずかしい液体が滴り落ちてるしな」
「…いやっ、あ…」
「楽になりたいか」
 突然、激しい振動が来た。ショーツの上から按摩器を押し当てられたのだ。
「…ッ!…ぐっ!…」
 たちまち絶頂の波が来た。
「…ひいいッ!…いっ…」
 いく−−
 その恥ずかしい台詞をつい口にしそうになった時−−
 振動が離れた。同時に、私の全身を弄んでいた男たちも。
「…う、ぐっ…」
 すんでのところで解放されずに行き場を失った淫欲のマグマが、私の中で暴れる。
 絶頂の波が引いていく。だが、一度煮えたぎったそれは私を許してはくれない。
 くくく…と蔑むような嗤い。
「道具を使った寸止めはキツイだろう。いつまで正気でいられるかな」
 諸星以外の男たちの手はすぐに戻ってくる。下半身がひくひくと震える。
 あの夜と同じだ−−
 あの時はさんざん焦らされた挙げ句に、輪姦願望があることを認めて、許された。
 だが、今日は違う。
 何を要求されているわけでもない。ただ、ショーとして、こうされているのだ。
 だと、すると−−
 私の意思ではどうにもならない−−
「…はううッ!…」
 またしても按摩器が来て、私を絶頂へと追い立てる。
「…はう、うっ!…いっ…」
 そして−−またしても引かれた。
「…ううううーーーッ…」
 内臓が溶けてしまいそうだ。
「いい表情になってきたぞ。汗にまみれた顔も美しい」
 ほくそ笑みながら私を見下ろす諸星。
「イキたいか」
 問われるまでもない。それをわざわざ訊くのは、そんな気がないからだ。
「媚薬を盛られてこいつでシゴかれて、堪えられる女はいない。どうなんだ、奈美」
「…いかせて…と言えば…」
 呼吸が苦しくて、言葉が続かない。
「ああ?」
「…言えば、いかせてくれるんですか…」
 ひひひ…と下卑た嗤いが起こる。
「こりゃいい」
「わかってるじゃないか」
 皮肉を言ったつもりだが、かえって彼らを増長させていまったようだ。
「寸止めがそんなに好きとはな。それじゃ、あと 1 時間ほど頑張ってみるか」
「…い…」
 そんなには、無理だ。気が狂ってしまう−−
「電マを当てれば数秒でイキそうになるだろ。仮に 10 秒だとして、 3600 秒だから」
「…いっ、いやっ!…許して…許してくださいっ…」
 ここは従順にならなくては−−
「それなら、おねだりしてみろ」
 悪態のひとつも吐きたかったのだが、そんな余裕はなくなった。
 全身にまとわりつく無数の手は容赦がない。手袋の蠢動も止まることがない。
 苦しい。辛すぎる−−
「…お願いです…いかせて、ください…」
 懇願した。涙がひとしずく、こぼれた。
 諸星は、ふふふ…と含み嗤いをしながら、言った。
「イカせてほしければ『楼蘭』の専属モデルになれ。奈美」
「…え…」
 狼狽する私に、諸星は淡々と告げるのだった。
 モデルの仕事は、ショーの生贄として男優たちに身体を預け、嬲り者にされること。
 ショーは不定期に実施され、会員に披露されるとともに、映像として記録される。
 モデルは現在約 10 名おり、各自都合のいい時に出演しているが、新人の私は最低でも 2 週間に 1 回という頻度でこなす。
 ショーの模様は「楼蘭」の収入源である DVD に編集され、会員に販売される−−
「なると言えば、イカせてやろう」
 この状況で、そんな取引を持ち出すなんて−−
「いまそうやって責められているだろう。それを月 2 回の仕事にすればいいんだよ」
 返答を渋っていると思われたのか、再び按摩器が来た。
「…あううッ!…ひイッ!…」
 不意打ちのような刺激に、絶頂寸前まで追い詰められる。だが−−
 またしても、そこで終わりだった。
「…うぐ、ううッ…」
 げっ…と、また胃液が逆流した。
「奈美…」
 諸星が耳許で囁く−−
「俺たちはプロだから技術面は安心しろ。ギャラもはずむ。緒方さんがマネジャーで、弟君が運転手兼ボディガードだ。あの連中に呼び出されて狼藉をはたらかれることを思えば、よほど安全じゃないか」
 はっ。
 たった今まで失念していたけれど、そのことがあった。
「旦那さんのことはお気の毒だったが、これも巡り合わせというやつだ。独身でひとり暮らしなら、心おきなくモデルに専念できるじゃないか」
 諸星は饒舌だ。そんなに私をモデルに使いたいのか−−
 首を縦に振れば楽になれる。でも−−
 ここでの一度の絶頂と引き替えに、自ら進んで身売りなんて、できない。
 もう、一度売り飛ばされたようなものだけれど−−
「…お断りします」
「何だと」
 予期したとおり、按摩器が来た。
「…うぐ、うっ…あうッ!…」
「強情を張るなよ。身体に悪いぞ」
 これまで以上に強烈に押しつけられ、ショーツの生地にクリトリスが激しく擦れる。
「…ああ、あッ!…ひいっ…」
 そして−−今度こそ絶頂すると思った瞬間、按摩器は離れた。
「…ぐっ…ぐううッ!…」
 下腹部がねじ切れそうな苦しみ。胃液がまた溢れた。
「今日のこれも、どうぜ DVD になるんだぞ」
 全身に群がる男たちも、聞き耳を立てているようだ。
「…人でなし…」
 呼吸が追いつかず、言葉も途切れる。
「ああ?」
「…この状況で…そんな大事なことを、持ち出すなんて…最低よ。卑怯だわ…」
「ほほう…そういう態度を取るわけだ。いいのか?」
 諸星の顔が喜悦に歪んだような気がした−−

6 俎上の魚

 10 人のスタッフが私から離れる。私を 1 時間以上も苛んでいたであろう手袋を外す。
「…はあっ…はあっ…はっ…」
 私は後ろ手に縛られて吊され、媚薬と感覚増幅剤の忌まわしい作用に全身を苛まれながら、追いつかない呼吸を繰り返していた。
 数え切れないほど絶頂を寸止めされた。下腹部にずっと淫欲が煮えたぎっている。
 今まで気づかなかったが、ステージの後方、そして広間のあちこちにはスクリーンが取りつけられ、ステージ上の模様を映し出していた。録画のモニター映像なのだろう。私の全身であったり、乳房や脚のアップであったりもする。
 顔のアップのモニターを見ると、今まさに映像を見つめている私の表情が映し出されていた。汗に顔中がぬらぬらと光る。アイシャドウが汗に溶けてすっかり落ちてしまっているが、もともとメイクは薄く、顔の印象は変わっていないはずだった。
 化粧のことなど、気にする余裕はないなずなのだけれど−−
「面白いことになってきおった」
 半裸の私を肴に、客たちが酒を口にしている。諸星らはステージの裏で何か組み立てているようだ。
 何が始まるのか全く予想がつかない。ただ−−
 あの場面での私の台詞が諸星らを挑発してしまったことは確かだ。
「奈美ちゃんよ、あの男たちに負けるんじゃないぞ」
 客のその言葉は私を励ますためのものではなさそうだった。
「簡単にダウンしてくれるなよ」
「なるべくぎりぎりまで抵抗してくれよな」
「だが気が狂う前に観念するんだぞ。ここの専属になればいいんだ」
 客たちは口々にそう言って、ひひひ…と卑猥な笑いを私に浴びせる。
 そのとき−−
 重量物が運ばれてくる気配と、ごろごろごろ…とキャスターの回る音。
「お待たせしました」
 諸星が客席まで行ってアナウンスする。
 運ばれてきたその物体に、目を見張った。
「まだ試作段階なんですが、奈美に挑発されて今日使う気になりました」
 それは−−ひと言で言えば「木馬」というものだろう。だが−−
 写真で見たような三角木馬とは違う。ちょうど将棋の駒のように横に広く、奥行きはほとんどない。床からの高さは 80 cm ほど。そして頂上にあるはずの鋭利なエッジはなく、中央部が窪みになっている。左右の斜面は可動式で、正面のハンドルを操作して角度を変えられるようだ。
「奈美。こいつに跨がってもらうぞ」
 乗せられれば、間違いなく、下半身に何かされる。
「いま、ここの角度は 60 度だが、何度がいい?もちろん、膝を伸ばして乗るんだぞ」
 木馬に乗せられること自体が厭なのに、角度の希望などあるはずがない。
 それで、答えずにいると−−
「 180 度ってのはどうだ」
 だれかが言うのを聞いて、慌てた。
「…だっ、だめっ…」
 体操もバレエも経験がない。前後にならともかく、左右に 180 度なんて、開けない。
「希望がないなら、こっちで決めるぞ」
 私が希望を言っても、すんなり通るとは思えない。だが、不満げにしているわけにもいかなくなった。諸星がハンドルを回し始めると、角度は徐々に広がっていく。
「…まっ、待って!… 60 度でいいですっ…」
「もう遅い。いま 80 度だからな」
 一度角度を広げたら二度と狭めはしないつもりか−−
「それに、 60 度『で』いいとは何だ。ちゃんと希望を言えよ」
「ほら、もう 100 度になるぞ。 180 度にするか?」
 スタッフたちが口々に追い詰めてくる。ハンドルの回転角に対して、両斜面の角度の変化は緩やかだ。だが、もう言わなくては。
「…ひゃ… 120 度にっ…」
 120 度くらいなら、少なくとも開脚じたいは苦しくはないはず。
「ストーップ」
 諸星がハンドルから手を放しても、斜面はすぐには静止しない。結局、 130 度。
「では奥さま、始めますか」
 スタッフが 2 名、ステージに上がってきた。私の足首の縄を解き、両腕の縄の縄尻を結わえた滑車を天井のレールに沿ってスライドさせる。まだまだ治まらない性感と疲労でその場に崩れそうになりながら、私は客席へと引き立てられた。
「…やっ…」
 身をよじって抵抗するが、力では敵わない。
 別のスタッフが木馬の斜面に液体を塗っている。オイルだ。
 それは、滑らせるため−−
「…あっ…」
 もがく私は 4 人がかりで持ち上げられた。そして−−
 「木馬」の両斜面に左右の脚がそれぞれ乗るように、またがらされた。
 そのまま抵抗しなければ、斜面の角度に合わせて両脚を広げられてしまう。今の 130 度なら大丈夫でも、一度ここに乗せられたが最後、角度は彼らの思うように変えられてしまう。膝を曲げていなければ堪えられなくなる。
 滑る木馬の上で私は膝に力を入れ、上体が沈まぬようこらえた。だが−−
 もともと丹念に磨き上げられていたらしいその斜面。
 さらに私が想像した以上にオイルは潤滑で、抵抗など無駄だった。
「観念してガバッと脚を広げな」
「そうしたらいいことがあるぞ、きっと」
 その木馬の使い道に見当がついたらしい客から野次。
 もしやと思って中央の窪みをに目をやると、そこに空いた穴からバイブレータの先端らしきものが覗いている。
 これに跨がらされたら、下からバイブで突かれる仕組みだ。
「…いやっ!…」
 無駄と知りつつ抵抗するのだが、両足首に革製の足枷がかけられようとしていた。
「…何するんですっ…」
 足枷に取りつけられた鎖は斜面の端の金属製リングに通される。
「これを両脚に吊してやろうな」
 金属のウェイト。
「ひとつ 3 kg のやつが 10 個ある。左右に 5 個ずつな」
 片足に 15 kg ?−−
「…い、いや…」
 忌まわしい薬剤のもたらす性感も忘れて、かぶりを振る。
 ジムでのエクササイズのとき、戯れにダンベルというものを持ってみたことがある。それには 5 kg のウェイトが付いていたのだが、たいそう重く感じられたものだ。少なくとも私には、長時間持っていられない重量だった。
 その 3 倍の重みが左右の足に?−−
 足首からの鎖がウェイトのフックに取りつけられ−−
「…あうっ!…」
 脚が左右にぐん、と引かれた。さらに木馬の斜面にはオイルが追加して垂らされた。オイルは脚にも意味ありげに垂らされ、淫靡な刺激を見舞ってくる。
「…だめ、えっ…あ、あっ!…」
 抵抗も虚しく、両脚はじわじわと引き裂かれていく。
 さらに私を追い詰めたのは、俎板の上に晒されたようになっている両脚に男たちが群がって責め始めたことだった。スタッフに混ざる形でなら許されているのか、客たちまでが参加している。
「…うううーーッ!…」
 彼らは斜面のオイルを掬ってはストッキングにそれを垂らす。太腿に、脹ら脛に、足の裏や指の間に、オイルを塗り込んでは揉み込んでくる。
「いい脚だ。身長のわりに、すらーっと長くて、細めだがほどよく脂がのっておる」
「それをエロなストッキングに包んで見せつけるから、たまらんわ」
 左右に 10 人ずつはいそうだった。指は 100 本ずつ。その 1 本 1 本が性感のツボを探っては、欲望に任せて責め立ててくるのだから、たまらない。
「…うあっ!…う、うっ…」
 さっきまでも脚をさんざん責められてきたが、今のこの姿勢はこれまでになく無防備だ。スタッフたちはまた蠢動する手袋をはめ、客たちは素手で、めいめいに指を這わせたり、オイルに汚れるのも構わず、唇を、舌を、歯を這わせてくる。
「…くう、うッ!…いやっ…」
「言っておくが、このオイルも感覚増幅剤を調合した特製品だ。ありがたく思え」
 体内の淫欲のマグマはまた沸騰し始めた。まだ完全に開脚されてはいなかったが、こうなってはもう、堪えきれない。
「…許してっ…だめっ…」
 そしてついに−−私の両脚は木馬の角度なりに、つまり 130 度にぴんと開かれてしまった。秘部はまさに中央の窪みの真上にある。
「…ああっ…いやッ!…」
 左右合わせて 20 人以上もの人数に脚を責められて、私は全身を激しくくねらせる。
 股関節がきしみ、鈍く痛み始めた。
 だが、男たちは責めを緩める気配はない。それどころか−−
 私の背後にも男は来て、乳房を、乳首を弄び始めた。胸だけではない。耳たぶにも、うなじにも、彼らはねちねちとキスを浴びせてきた。
 気がつくと私の正面には再び諸星が。その手には再び按摩器が握られている。
「寸止めを再開するぞ、奈美」
「…いやぁッ!…もう、いやですっ!…」
 充血の度合いを増し、破裂せんばかりに膨れあがったクリトリスが、ショーツの中でわなないている。
「わざわざ挑発的な悪態をついたのは、どこの奥さまだったかな」
 木馬の頂上の窪みは 20 cm ほどの深さがあり、人の手くらいは容易に入る。
 そこへ−−
「…ひいいッ!…」
 按摩器が入り、ショーツの上から秘裂をなぞった。そして、すぐに離れた。
 再び呼吸を荒げながら諸星を見る。汗と涙で彼の顔が霞んで見えた。
 ひどいことになるのは予想がついていた。だが、これでは本当に気が狂ってしまう。
「…ゆ、ゆる…」
 許してと言葉になる前に、また来た。
「…あううッ!…」
 それが何回繰り返されただろう。
 そのうち、ショーツを切り取られた。そして按摩器は 1 本から 2 本、 2 本から 4 本と増えて、木馬の前後から私の秘裂を、クリトリスを、苛んではすぐに離れた。
 まるで、獰猛な蜂が毒針を刺しては逃げるように−−
 そのたびに、煮えたぎる淫欲のマグマが爆発しかけては、すぐに抑え込まれた。
 それを十数回も繰り返されたはずだった−−

「…うっ…」
 内腿に鋭い痛みを感じて、私は意識を取り戻す。
 絶頂寸前の沸騰状態が限界を超えて、気絶していたらしい。
「感覚増幅剤を追加したからな」
 見れば私の左右の脚はやはり 130 度に開かされており、相変わらず 20 人もの男が群がっていた。蟲が蠢く感覚は一向に治まる気配がないのだった。
 脚の性感というものは、いくら責められても慣れるということがない。愛撫のしかたによってはうっとりするような快感も得られるはずなのだが、陵辱者たちの指遣いは陰湿で悪意に満ちていて、快感はなく辛さばかり。
 私に最も近い位置、前後左右を取り囲んでいる 4 人は、とりわけ私の脚に執心なようだ。その時々によって膝の辺りにいたり下肢にいたりと位置は異なっても、必ず 4 人が前後左右で対称となる位置にいる。おおむね好き勝手にやっているが、不意に 4 人が同期して指を立て、圧力強めに引っ掻いてくるのだ。それをされるたびに私はぎりぎりまで背を湾曲させて苦しむことになる。
 今の彼らの標的は太腿の付け根だ。いつそれをされるかと怯えるだけで濡れてくるほど−−そして、今、来た。
「…くう、うっ!…いやっ…それは、いやッ!…」
「これか?…」
「これか。これがたまらんのだな?…」
 と、また繰り返される。たまらずかぶりを振る。
「…ゆるしてッ!…」
 足首のウェイトはびくとも動かず、持ち上げて太腿を閉じることはできない。
「増幅剤がいちばん効いてるところだしなあ」
 私の妄想の中では無数の蟲が棘を逆立て、渦を成して太腿を舐めている。
 そして−−他の男たちも面白がって同じ動作をし始めたときだった。
「…やっ…やめて…えッ!…だっ、だめッ!…」
 どくっ!…
 愛液が塊のような滴を成して溢れ−−
 全身をびくびくと硬直させる。思いがけず、昇り詰めた。
 呼吸を荒げる私を見下ろす男たち。どの顔にも薄笑いが浮かんでいる。
「脚だけでイキやがった」
 これまで数え切れないほど絶頂したが、脚を責められるだけでいったのは初めてだ。だが、秘裂やクリトリスを刺激されて達するときとは違い、出し切る感じがしない。膣奥がむらむらと燃え上がるばかりで、淫欲の沸騰状態は依然として解消されない。
 そうする間も、左右に 100 本ずつの指は動作を止めない。
「だれがイッていいと言った。奈美」
 諸星の口調が厳しい。段取りが狂ったとでも言いたげだ。
「…だっ…だって…」
 しかたないじゃない−−
 もともと敏感な脚に感覚増幅剤など打って、 20 人で責めたりするから−−
「今ので楽になったのか」
 かぶりを振る。
「苦しみの揚げ句に堰が切れた…ってところか」
 諸星は少し思案していたが、
「とうとう限界を超えたということだな…よし。次へ行くか」
 そう言うと、不意に指を挿れてきたのだ。
「…うあっ…」
「どろどろに煮えたぎっているな…さぞや、これでは辛かろう。くくく…」
 あの夜、キョウスケの指に犯されたときの感覚を思い出した。キョウスケの指は長く、たくましかった。諸星の指にはそれほどの存在感はないものの、淫猥で、狡猾で−−何か一癖ありそうな感触だ。
「いま、楽にしてやる。ただし、楽なのは初めだけだろうがな」
「…あっ!…」
 諸星の指が私のその急所をすぐに探り当てた。
「ここだな。奈美のスポットはわかりやすい」
 そこを掻き立てるように諸星の指が動く−−
「…ひい、いッ!…」
「いいか、奈美。これからはいくらイッても構わないが…」
 構わないが、何?−−
 またしても嫌な予感が−−
「一度イクたびに、こいつをお見舞いする」
 見せられたのは、プラスチックの袋にずらりと収められた注射針。
「…そ、そんなっ…」
「心配するな。乳首だのクリだの、やばいところには今日は刺さない。太腿だ」
 太腿になら刺されてもいい、とは思わない。
「痛みのない最新鋭のやつじゃない。ちゃんと痛いからな」
 どうすればいいの−−
 いかせてもらわなくては気がふれてしまう。
 だが、いけば次は針責めだという。
 諸星の指が活発になった。
「…ああっ!…も、もう…」
 どうしたらいいのか、わからなくなっていた。
「みなさん、奈美の股間をよく見ててください」
 くちゅくちゅ…と卑猥な音がして、大きな波が迫ってきた。絶頂の予感。
 その波のあまりの大きさに戦慄する。
 待ちに待った絶頂−−だがそれを迎えたが最後、心臓が止まるような気がした。
 しかも、絶頂すれば針が来るのだ。
 諸星は指の運動を速める。
「…あああッ!…こっ、怖いっ!…死んじゃうっ!…」
「心配するな。せいぜいまた気絶するくらいだろうぜ」
「…いやっ!…だ、めっ…」
「だめなのか?…我慢できないのか?…ほらほら」
 諸星の指がそこを激しく打撃する。
 全身への責めの手もいっそう熱を帯びる。
 もう、無理だった−−
「…あう、うッ!…だっ…」
「だめか?…もうだめか?…だめだめだめ…」
「…もう、だめッ!…いくっ!…」
 びゅううううううっ!…
 潮が吹き出した。
「…いくっ…ああっ、いくっ!…」
 それは一度では治まらず−−
 びゅううううっ!…
 びゅううっ!…
 びゅっ!…
「…うむ、ぐっ、ううッ!…」
 身体中に群がる男たちを振り払わんばかりに私は全身をよじり、がくがくと震えた。
 深すぎる快楽に呼吸ができない。このまま死ぬと思った。
 意識が遠のく。そのまま失神しそうだった。だが−−
 ぶすり。
 右の太腿の、腰骨と膝を結ぶ稜線。その、腰に近いあたりに針が来た。
「…うあっ!…」
「くくく…約束だからな。奈美は針の味もまんざらじゃないような気がするぜ」
 そう言いながら、諸星は針をぐりぐりと押し込んでくる。
「…くう、うっ!…いっ…痛いっ…」
「ん?…なんだなんだ」
 諸星は私の中に右手の中指を挿入したまま。まだ続けるつもりなのだろう。
 その彼が、何か発見したという声を上げる。
「太腿に針をお見舞いしたら、クリがまたでかくなった」
 そう言いながら、右手の親指でクリトリスに触れてくる。
「…うっ、いやっ…」
「ほんとか」
「奈美は針責めが気に入ったようだ」
「…嘘っ…そんな、まさか…」
「ここまで好き者だとは思わなかったぞ」
「このままクリの勃起が治まらないようなら、クリにも針だな」
 クリトリスに、針を?−−
 最も敏感な神経の固まり。そこに針が来たら、きっと私は死ぬ。
「…おっ、お願い…それだけは…」
「それだけは、何だ?」
 諸星の指が、今度は 2 本になって犯してきた。
「…あああっ!…」
 指が増えると、そのスポットを掻き立てる動作も段違いに激しくなった。
 そしてすぐに 2 度目の波が−−
「…いやああっ!…」
 びゅううっ!…
 びゅっ!…
「 2 回目ぇ」
 ぶすり。今度は左の太腿。 1 本目と対称の位置に 2 本目が来た。
「…ああっ!…」
「奈美。クリトリスに針と聞いた途端に、また昂奮しただろう」
「…しっ…してないっ…」
 左右の太腿の針がぐりぐりとねじ込まれる。
「…つうっ!…ゆっ…許してっ…」
「ほーらほら、クリがまたびんびんになってるぞ。身体は正直だな」
「…そんな…そんなっ…」
 不意にクリトリスをしこしこと揉まれた。その途端、
「…きゃああッ!…」
 びゅうっ!…
 またいってしまった−−
「 3 回目ぇ」
 あまりの感覚に仰け反った。両脚がびくびくと痙攣する。
 右の太腿に 3 本目の針が来た。
「薬も効いてることだし、イキっぱなしの状態になってるんだろう」
「そうか…それじゃグロさん、アナルを」
「オーケー」
 諸星に「グロ」と呼ばれたスタッフが、アヌスに何か塗っている。
 ワセリン−−
「あの夜はアナルではイケなかったようだが、今日はイケるようにしてやるよ」
 彼はそう言って、怪しげな器具を私に見せた。シリコンらしき素材でできた細長い棒。捻り切ったようなデザイン。
 こんな蝋燭があった気がする。蝋燭と違うのは、自在に曲がることだ。
 それが私のアヌスに−−
「…ひっ…」
 淫靡な感覚に硬直する。捻り棒はゆっくりと入ってくる−−
 そして、抜かれる。また入ってくる。その繰り返し。
「…いやっ…いや、あっ!…」
「いい声だ」
 捻り棒が抽送されるたび、アヌスの内部の粘膜が引っ掻かれる。
 まるで粘膜のあちこちに性感のスポットがあるようだ。そのスポットというスポットを、捻り棒の切れ込みが容赦なく刺激してくる。
「アナルに集中するんだ。奈美」
 諸星はクリトリスを揉んでいる。ただし、さっきのように乱暴ではない。
 それに同調するように両脚や乳房への責めもソフトになった。
 そうしてアヌスが私の官能の頂点となり−−
 やがて、グロの操る捻り棒に私は屈した。
「…うむ、うッ!…」
 ぶるぶると全身が震える。初めてのアヌスでの絶頂−−
 そして、左の太腿に 4 本目の針。
「それじゃ、またこちらで…」
 諸星の指が秘裂の中でまた暴れ始めた−−
 すぐに波が来る。絶頂の間隔が短くなってきたのだろうか。
「…ああっ…また、くるっ…」
「イクときはイクって言うんだぞ」
「言わないと、クリトリスに針だ」
「…い、いやっ…いくっ…ああ、いきますっ!…」
 びゅうっ!…
 なおも止まらない諸星の指。
 俎上で料理される魚のように、私の体内の欲望が露わにされていく−−

「また随分と垂れ流したもんだな。見てみろ」
「…あ…う…」
 意識を取り戻すと、髪をつかまれ、モニターのひとつに目を向けさせられた。
 そこには私の股間と木馬の頂部がくっきりと映し出されている。秘部からはねっとりと白い愛液が糸を引いて垂れ落ち、その周囲は透明な液体でぐっしょりと濡れている。
「…やっ…」
 恥ずかしい。恥ずかし過ぎる−−
「ちょうど 20 回、吹いたぞ」
 潮を−−
 視線を落とすと、私が乗せられている木馬の周囲は夥しい量の液体で洪水のようになっている。これだけ絞り取られれば、何も残っていないはずだ。
 G スポットで、クリトリスで、アヌスで−−責め立てられる場所を順番に変えられながら、いかされた。
 見れば、左右の太腿にはそれぞれ十数本の針が突き立てられている。脚をよじると激しく痛むのはこのためだった。途中で頭の中が真っ白になり、いった回数などわからなくなっていた−−
 左右の足首に結びつけられた 15 kg のウェイトはそのまま。
「昇華堂さん、奈美ちゃんに水を飲ませてやってくれないか」
「凄まじい潮の量だよ。このままじゃ干からびちまうからな」
 下劣な中高年ばかりだと思っていたが、お客の中には優しい人もいるようだ。
 言われてみれば、喉がひどく渇いていた。大量の水分を失ったのだから。
 後ろ手に縛られたまま、ペットボトルを咥えさせられた。そのままごくごくと飲んだ。
「水分を補給して、またびゅうびゅう吹いてくれよな」
 気遣われているのではなかった−−
 そうと知ったとき、水が気管に入って激しくむせた。
 客たちの爆笑。
 それきり、渇きが癒えるほど飲めはしなかった。
「さて…では次、いくぞ。ここから先は腕力が要るから、マルさん」
 ここから先…って−−
「おおさ」
 諸星に「マル」と呼ばれた男が正面に来た。坊主頭で、 100 kg はありそうな巨漢。
 この木馬の製作責任者だという−−
「どこまでやりますか」
 マルが諸星に訊く。
「奈美と相談して決めてくれ」
 諸星が答えると、マルはハンドルに両手をかけた。
「…待って…どうするんです…」
 訊くまでもなかった。角度を開くつもりだ。
「大量に垂れ流しただろう。そのおしおきだとさ」
 そんな−−
「まあ余興だが、ついでに奈美の開脚限界を知りたい。目安は 180 度だが…」
 気づいたときには、もう動き始めていた。
「こいつはいちおう 270 度まで開くようになってる」
 顔から血の気が引いていく。内腿の筋肉が張り、股関節に鈍痛がし始める。
「…やめ、てっ…お願い…無理ですっ…」
「 160 度になったぞ」
 腰全体にずーんと鈍い痛み。
 いけない。このままでは、壊される。
「…ああ、あっ!…私、そんなに柔らかくないですっ…」
「だから試してるんだよ」
 マルの冷淡な台詞が私を追い詰める。
「いきなり 180 度は無理でも、 130 度から徐々に開いていけば到達するだろ」
「 20 回も潮を吹いて、下半身も柔らかくなってるだろうしな」
 他の男たちが口々無茶を言う。わざと言っているのだろうが。
「…うううっ…お願い、止めてっ…お願いですからっ…」
「 170 度」
 ミシ…
 どこかの筋肉か関節が音を立てた。
「…だめえッ!…もうっ…もう、無理っ!…許してっ!…」
 取り巻く男たちの中に、泣きじゃくる私をなだめる者はいない。
 ミシ…
 股関節に激痛−−
「ほうら、 180 度だぞ。奈美、できたじゃないか」
 そんな声を遠くに聞いた気がした−−

7 覚醒

 緒方冴子は客席の隅でショーの行方を見守っていた。
 広間の中央には中山奈美こと千倉愛美が、木馬に跨がらされたまま気絶している。斜面の角度が 180 度に至ったのは一瞬だった。いまは 120 度ほどに狭められ、ウェイトも左右 6 kg ずつに減らされている。
 全身の汗は拭き取られ、髪の乱れも整えられている。淡いピンク系のアイシャドウはすっかり落ちてしまい、汗ごと拭き取られたために愛美はいま素顔同然でいるのだが、相変わらずの美貌を見せつけている。童顔の愛美はメイクなしではむしろ若さが際立つ。幼さの残る顔にはあまりにも不釣り合いな凄惨な疲労が浮かび、この上なくエロティックだ。
(予想通りだったのはショーの展開と、客への受けの良さくらい、か…)
 冴子はふうと溜息をつく。
(すごかったわよ…)
 男たちに取り囲まれて一層引き立つ美貌。
 媚薬と感覚増幅剤を見舞われての悶え苦しみぶり。
 ステージでおよそ 30 回、木馬の上で 20 回もの寸止め拷問。
 それに堪えた後の、 20 回の連続絶頂と盛大な潮吹き。
 そのどれもこれもが冴子をも昂奮せしめるものだった。男たちに与えたインパクトは いかほどだっただろうか。そして−−
 想定外の最たるものは、諸星をはじめとする陵辱のプロたちの熱気だった。
(あんなに夢中になっちゃって…)
 女を嬲ることにかけては百戦錬磨であるはずの男たちが、上辺は冷静を保ちつつも汗にまみれ、目は血走らせて、愛美に欲望をぶつけている。あの連中はもっと淡々と女を責めるはずなのに。
「お隣、よろしいですか?」
 その娘に見憶えがあった。「楼蘭」所属の M 女でユリという。
 ユリはさっきまで前方の老人の横にかしずいていた。
「お客の性欲の処理?…」
「はい。今の方でもう 12 人目。 2 回目を出した方もいるんですよ」
 しきりに口に手を当て、気にしている。
「…大変ね」
「口の中に出されるの、まだ慣れてなくて…でも仕事ですから。それに、ここで男性の機能が回復するなら、喜ばせてあげたいし」
 愛嬌がある。 M 女の中では確か最年少。某有名私大の大学院生で、リケジョだ。
「私、貴女の初舞台を見たわ。連れがここの会員でね。ちょうど 1 年くらい前よね」
「そうでしたか…ありがとうございます。でも、今日はお一人で?」
 関西訛りのイントネーションも可愛い。
「今日のモデルの付添なの」
「そうでしたか…」
 スタッフたちが次のステージの準備に忙しく動き回っている。
「ここでの仕事はどう?…辛い?」
「辛いですよぉ、それは…でもギャラがすごくいいし、それで生活費と学費が賄える上に貯金もできるので、やめられませんね。お客さんもスタッフさんも可愛がってくれるし」
「どのくらいのペースで?」
「ショーに出るのは月イチにしてもらってるんです。学校が忙しいのと、ショーに出れば翌日は寝込んじゃうので…その代わり、出るときは金曜の夜から 36 時間、監禁されるんです…ふふ」
 冴子はそれからひとしきり、ユリのショーの模様を聞いた。
「それで…今日の奈美をどう思う?ここのモデルが務まるかしら」
 ユリは、そうですね…とひと思案してから、
「まず、ルックスは申し分ないです。可愛いし、身体の線も綺麗。 28 歳だなんて思えないくらい肌は艶やかだし、 M 女のオーラもギンギンに出てるし」
 聡明そうな印象の通り、しっかりした口調で話す子だ。
「ちょっと驚いてるのは、スタッフさんたちの熱中ぶりですね」
「やっぱりそう思う?…」
 ユリは強く頷く。
「彼らは普段、 M 女ひとりひとりに思い入れはないんだそうです。集団でひとりの女を嬲るのが好きなだけで、欲望を抱きはしないみたい。だからこのクラブをやってるんだと思いますけど。でも…」
 またひと思案する。
「奈美さんにはギラギラの欲望を抱いてるんじゃないかしら。あの DVD のせいかもしれませんけど、もう、虜になってるっていうか」
「あの DVD でも、そうなのよね。犯してる男どものほうが支配されてる感じ」
「同感です。今日も、拷問されてる奈美さんのほうが場のムードを支配してますよね。みんなして奈美さんに奉仕してるっていうか」
 でも…とユリは言い、
「奈美さん…ちょっと心配…」
 と、木馬の上で昏い眠りに堕ちている愛美を気遣うような視線を送る。
「この後のこと?…」
「はい…これからバイブ責めされるんだと思いますけど、それだけじゃなさそうで」
「たとえば?…」
「私の初舞台のときのこと、憶えておられます?…さんざんいかされた後、疲れてるだろうからって、<気付け>だとかいって非道いことをされたの」
「そう言えば…乳首に針。じゃなくて、針と糸…だったわね」
「そうなんです…非道いでしょ。あれからひと月くらい痛んだんですよ。幸い、元通りに治りましたけど」
「奈美も疲れ果ててるから、されるっていうの?…乳首に針。まあ、いいけど」
「いえ…あの後で私、猛烈に抗議したんです。針を乳首やクリに刺すのだけはあかん。他の人にも事前に承諾を得ないでしたらあかん。約束せんのやったら辞めます、って。私、どうやら辞められると困ると思われてるみたいで、それは聞き入れてもらいました。だから、それは心配ないと思うんですけど…」
「…けど?」
「奈美さん、もう、とっくに限界超えてるでしょ。気付けだかと言って、きっとえげつないことされますよ。お客さんも期待してたりしますし。それがエスカレートしなければいいけど…」

 3 度目の失神からの覚醒は、、またしても内腿への注射によるものだった。
 斜面の角度は 120 度ほどに狭まっている。痛みはあるが、股関節はどうやら無事。
 太腿に刺された何十本もの注射針も除かれていた。足首を戒める足枷はそのままだが、左右のウェイトは軽くなり、膝を曲げようと思えば曲げられる。
 だが、木馬に乗せられていることに変わりはなく、両腕も後ろ手に縛られたままだ。
 正面には木馬製作担当・マルがいて、にやつきながら私を見下ろしている。マルは 30 代前半というところで、主要メンバーの中では若いほうだ。そして、私への欲望を隠そうとはしていない。
「…今度は、何…」
 輪姦されるのではなさそうだった。それなら、こんな拘束は解かれるだろうから。
「何、じゃないだろう。奥さまがお待ちかねのやつだよ」
 正面のスクリーンが明るくなったかと思うと、私の下半身がクローズアップされた。
 太腿と腰部。秘部を守る陰毛の 1 本 1 本まで鮮明に映し出されている。
「…やっ…」
 顔を背ける。あまりの恥ずかしさに、顔が熱くなる。
「ここに何が仕込まれてるか、わかるか。さっき見たよな」
 スクリーン上、左右の斜面の間の窪みを拳で叩いて見せる。
「…バイブレータ…」
 スクリーンを横目で見ながら、言った。
 今その穴を見下ろしても、奥に引っ込めてあるのか、何も見えない。
「そうだ。バイブが電気で上下運動するようになってる…ま、見当はついてただろうがな。今日の仕上げにそいつで遊んでやる」
 最後はバイブ、か−−
 この木馬に乗せられるときは気が動転して抵抗したが、バイブそのものが怖いわけではない。ひと月のブランクはあるものの、馴染みの道具だ。縛られて開脚固定されている点が、いつもとは違うけれど−−
 あの試写の後だから、最後はまた輪姦されるのかも知れない−−そう覚悟していた私にとって、拍子抜けする展開ではある。
 諸星や他のスタッフ、客の一部が私の前に椅子を並べている。木馬の 80 cm という高さは、私の秘部が苛まれるのを観察するのにちょうど良いようだ。
 あとは機械に任せて、自分たちは見物を決めこむのだろう。見せ物だ。
 輪姦されるほうがまだまし。人間味がある、というべきか−−
 私を好き放題に弄び、さんざん辱めたのだから、最後まで手を抜かないのが筋というものではないか。それを「あとはバイブで遊んでいろ」とは勝手すぎないか。
 馬鹿にしないで−−
「まだ試作段階だから、無茶な動きをするかも知れん。承知しておけよ」
 マルが言うと、
「まあ、ウォーミングアップは十分すぎるほどしたから」
 他の男も続く。
「人間のオスと違ってバテたりしないからな。ゆっくり楽しむがいいぜ」
「若いのが 30 人でかかっても敵わない奥さまだ。機械に任せるしかないよなあ」
 ぎゃははは…と爆笑。
 私をまるで底なしの淫乱だとでも思っているのだろうか。
 悔しい。そして、情けない−−それで−−
「…こんな機械に任せて、皆さんは見物ですか」
 つい、そんなことを言った。
「そのつもりだが?」
 そう訊いてくるのはマル。製作者には不愉快な一言だったろう。
「それとも、人間のオスのペニスのほうがいいってのか?…つくづく好き者の奥さまだ」
 またしても、ぎゃははは…と爆笑。
 だが、
「…この木馬…」
 私が何か口答えしようとしているのを察したのか、静かになった。
「…労作だと思いますけど…バイブの仕掛けは、安直…ですね」
 そう言うと、場が静まった。マルが顔を赤らめている。
 私はストッキングを付けただけの全裸で縛られ、両脚はほぼ固定されている。身体の自由を奪われた状況で反抗的な態度を取れば、まずい事態を招くのは間違いない。
 でも−−我慢できなかった。せめて言葉だけででも、一矢報いたかった。
「どういう意味だ?」
 苛立ちを隠そうともせずにマルが言う。
「…電気仕掛けでバイブを動かせば、女は勝手に感じるんですか」
 自然、棘のある言い方になる。
「違うかよ。普通の女はわからんが、奥さまはバイブで感じまくると思うぞ」
 また爆笑。だが、怯むわけにはいかない。
「…つまらない反応しか見せませんよ、きっと」
「そんな自信でもあるのか?」
「…だって…」
 感じない自信はない。私のことだ。バイブが動き出せばどうなるかわからない。媚薬の作用も鎮まってはいないようだし、追加された感覚増幅剤は再び脚の性感帯を苛んでいる。
「…もう、くたくただから…」
 マルはふっ…と鼻で笑う。
「よく言うぜ。口答えする元気があるんじゃないか」
「…ここまで、私を何回いかせたんですか。空っぽになるまで、しっ…絞り取って…その前には、気を失うまで寸止めを繰り返して」
「だからもうイケないってか?…体力の限界だとでも?」
「…そうです…もう限界…」
 くくく…と冷ややかに嗤う男たち。
「さっきの試写を自分も見てたんだろ。限界とやらを超えてからが奥さまの本領のはずなんだがな。人妻の欲望は底なしじゃねえのか」
「…生身の女なんですよ…いつもそんな、風だとは…限らないじゃ…」
 喋っているうちにまた涙が出てきた−−
 私が啜り泣きを始めたので、口々に嘲っていた男たちは次第に黙った。静寂が場を包んだ。

 泣いて見せたからといって、それで許されるとはもちろん思っていない。
 むしろ、厳しい責め苦はまだまだ続くだろう。
 私が空っぽになるまで−−いや、空っぽになってもなお、絞り取られるはずだ。
 悲鳴や、許しを請う声、喘ぎ声、涙、汗、愛液と快楽を。でも、なぜ?
 それは、きっと−−
 私が性の拷問にのたうち、泣き叫び、潮を噴き上げながら絶頂に達する姿を見るのが、彼らの快楽だから。
 それは客たちの快楽でもある。だからショーとして成立している。
 ショーの生贄は、女なら誰でもいいわけではない。資格というか、要件があるはず。
 まずは美貌と、性的なアピールだ。次に若さ、そして体力?−−
 私には、それがある−−
 そう−−
 私を性的に蹂躙したいとか、犯したいという欲望を抱く男は大勢いるようだ。
 それは私にそれだけの魅力があるからだと認めていいのだろう。
 容姿に恵まれただけでなく、それを維持するように努めてきたから。
 男の目を楽しませるような、フェミニンな装いを心掛けてきたから。
 その<甲斐>があって、こんな役回りを与えられているのに違いない。
 あの日も過酷な目に遭った。今日も、失神するまでの寸止めとか、 20 回もの潮吹きとか、一瞬とはいえ 180 度に開脚させられたり、と無茶はされたが−−
 無茶をされた“見返り”として、普通の生活をしていては到底経験することのできない快楽を与えられている。
 媚薬と感覚増幅剤の作用で下半身が熱く疼き、無数の蟲の微細な棘に苛まれながら、怪しいオイルで脚を執拗に愛撫され、上半身も乳房はもちろん脇腹や耳朶に至るまで性感帯という性感帯を隈無く責められて、一瞬たりとも喘ぎ声を堪えることができない。休むことを許されたのは気絶している時間だけだった。
 でも−−こんな目に<遭うことができる>のも、私にそうなる資格があるからだ。
 私を貪り、私に無茶なことをする彼らは、私に甘えているのではないか−−
 そんな風に思えてくるし、嬉しくさえある。
 つい無茶をしたくなるほど、私が魅力的だからなのだ。
 むしろ、無茶をされるのは、「女冥利」に尽きることなのだ。
 そう−−
 夫を亡くし、家族からも離れて自由になった今だから、この境遇を満喫すればいい。
 まもなく 29 歳になる。 30 代前半までなら維持する自信はあるが、容色はやがて衰え、男たちの欲望の対象ではなくなる。
 今のうちに楽しまなくては−−
 そして−−
 ひとつ、忘れてはならないことがある。
 私がこの状況を「女冥利」だと思っていると、決して悟られてはならない。
 あくまでも抗いながら、そして怯えながら、彼らの術中に堕ちていくべきなのだ。
 それが彼らの望むところだから。さらに、
 抗うことで彼らの仕打ちが酷くなれば、私の快楽もより深いものになるのだから。
 私は女優−−被虐のヒロイン、中山奈美だ。
 ここまで与えられた快楽に報いるためにも、彼らの望む展開に協力しよう−−
 そこで、バイブ。
 開脚固定されたままバイブに犯されるのは、男たちが全く消耗しないという点で拷問の色彩が濃く、ショーとしても見栄えのするものだろう。見せ物になるのは本意ではなかったが、よく考えれば私は初めからショーの生贄だ。
 バイブが無限回のピストン運動をすれば、私もまた果てしなく絶頂を繰り返すに違いない。それこそ、限界を超えて。
 それに、彼らの考えることだ。単なるバイブの運動では済まないのではないか。また無茶な責めかも知れないが、それは私の欲望に叶うことかも知れない。
 私はバイブ責めに抵抗した。ここまでの流れと矛盾しないように、バイブ責めを受け入れる発言をしよう−−

 数秒間か、十数秒間かの沈黙。ほんのわずかな時間に、そこまで考えが進んだ。
 場に流れを取り戻すために、何か切り出そう。
「…寒いわ…」
 それは本当のことだった。全裸で縛り上げられたまま放置されていたのだから。
 バイブ責めが始まるとすれば、秘裂の潤いが引いていてはいけない。
「…ガウンか何か、掛けていただけませんか」
 彼らは何かしてくるだろう。そうすれば、きっとすぐに濡れるはずだ。
「ガウンじゃなくて、暖めてほしいんじゃないのか」
 マルが言った。左右の太腿に、脹ら脛に、オイルが浴びせられた。
 また、脚に来る。
「…うっ…そんなつもりじゃ…」
 感覚増幅剤の作用はずっと続いていて、無数の蟲が微細な棘で肌を苛んでいた。
「遠慮するな。脚を暖めるくらい、お安いご用だぜ」
 スタッフの一部と客たちがまた集まってきて、さっきと同様の愛撫を始めた。左右の脚に、やはり 10 人ずつほどだ。
「…うっ…くっ…い、やっ…」
 演技などしなくても、自然に抗う声が漏れる。
「ほおら、汗ばんできたじゃないか。カンタンなもんだな。暖まってるか?」
 男たちの指の動きがますます執拗になっていく。先に脚への責めだけで私をいかせた 4 人組が、今は膝のところに陣取って、同期した責めを加えている。
「…暖まりました…ですから少し、加減を…うっ!…」
「遠慮するなと言っただろうが」
「奈美ちゃんの脚なら一晩中責めても飽きない。応援するから、感じまくってくれよ」
 あちこち伝線したストッキング。その生地は私の汗とオイルをたっぷりと含み、男たちの指の動きに加勢するように淫靡な刺激を与えてくる。引いていた汗がまた全身に滲み出した。
「…いっ…いやっ…あっ!…」
 極小ローターを仕込んだ手袋がまた登場している。脚を愛撫する手の半数はそれを嵌めている。
 彼らは私の脚を愛でたいのだ−−と、責められながらも甘えられている実感を持つ。だが、利かん気の悪童に好き放題されているようでもある。
「なかなかイイ感じになってきたじゃないか」
「バイブにズコズコ犯られるんだから、愛液をタップリ出しとかないとなあ」
 そう言いながら彼らは、身悶える私の反応を探りつつ指を動かすのに余念がない。
「それはそうと、何を話してたんだっけ」
 ふと、ズミが仲間に訊く。
「奈美がもう限界だ、と言って泣き出したんだよ」
「その前だ」
「バイブが電気で動くだけじゃ感じない、ってか」
「そうそう…この仕掛けが安直だってな」
 マルが視線を向けてくる。さっきの苛立ちがぶり返したようだ。
「生贄の分際で、ずいぶんな口を利いてくれたよなあ」
 大きな手で頭を掴まれ、揺すられた。逆らわずマルの目に視線を合わせる。
「まだ何か言いたいのかよ」
「…動かしてみたら?…」
 おや、という表情をマルが見せた。
「ほどよく濡れてバイブが欲しくなったか。だったらそう言えよ」
「…私は実験材料なんでしょう。拘束されてるんだし、逆らいようがありません」
「どうあっても電気仕掛けは気に入らないと見えるな」
「…気に入るも入らないも、私をここで台から降ろす気はないのでしょ」
 ほお、と言ってから、マルがほくそ笑んだ。
「その言い草からすると、覚悟ができたということだな」
「…どうぞ、ご存分に…」
「よおし。いい心掛けだ」
 マルが諸星やグロと目で合図をしている。スタッフが動き出す。
「安直どころじゃなかった…って思い知らせてやるから」
 マルが離れると入れ替わるように諸星が前に来た。
「奈美」
 私の耳に顔を寄せてくる−−
「一時は場が白けかけたが、おかげで面白い展開になったよ。役者だな」
「…え…」
 諸星には、読まれている?−−
 それでも、肯定してはいけない。
「…何のことです?…」
 ふふふ…と諸星は含み笑いをし、
「 M 女の性ってやつか、自分を虐めたい欲望はわかるが、ほどほどにしといたほうが身のためだぞ」
 そう言って、私の頭を掌で軽く叩く。
「特にマルを本気にさせちまったからな。奴が何を持ち出すか、俺にもわからん。ほんの出来心だったんだろうが、無茶な発言を後悔することになるだろう」

8 無間地獄

 バイブ責めが“安直”でなくなるのだけは確かなようだった。
「覚悟ができてるんだったな」
 マルが私の前に来ると、そんなことを言いながら身を屈め、木馬の前面をいじり始めた。ネジを緩めて蓋を外すと、中から何か取り出す。バイブレータ。
「これで十分だろうと思ってたんだが、こいつはボツだ」
と言って私の目の前に突きつける。
「…ひっ…」
 悲鳴が漏れるのを堪えることはできなかった。
 私が知っているバイブは、女性が開発したというオナニー用のものだけ。機能優先で男性器を特に模したりはしていないし、挿入部分も手の中に納まるサイズで無理がなく、クリトリスと膣内のスポットへの責めに特化されている。
 そんな<女性による、女性のための>バイブばかりでないことは無論承知していた。ところが、いま目の前で金属製のシャフトを芯にしてそそり立つそれは、規格外というか、私の想像の遠く及ばないものだった。ちょうど私の前腕ほどの長さと太さ。ピンク色に着色されてはいるが明らかに男性器を模したもので、亀頭部はくっきりとエラが張り出し、抽送すればそれが敏感な粘膜を激しく摩擦するはずだ。
 これで十分だとマルは思ったらしいが、それどころではない。膣がぎりぎり受け入れられるかどうかという圧倒的な体積。挿入されれば串刺しにされたように身動きできなくなるだろう。ましてピストン運動などされれば、腰が砕けてしまうに違いない。
「こいつで練習してみても良かったんだが、奥さまのお気には召さないだろうからな」
とシャフトを抜き、傍らにおいたケースに収納する。
「今のやつでも良かったんじゃないのか」
「さっきの向こう見ずな台詞はこいつを見てからでも遅くはなかったかもな」
 戦慄する私をさらに追い詰めるように、両脚に群がっている男たちが口々に言う。
 ひひひ…と下卑た嗤いが私を包んでくる。 
「…というわけで、奥さまにはこいつだ」
 同じケースからマルが何か掴み上げる−−
「…そっ…」
 そんな−−
 それが、バイブなの?−−
 男性器を模した、というよりはデフォルメし尽くした、異世界の怪物の性器を切り取ったようなもの。先のバイブより一回りも二回りも大きい。
 男性の握りこぶしほどもあろうかという巨大な亀頭部。多くの突起をあしらった軸部。オイルが塗られているのか、暗褐色の表面がぬらぬらと光っている。女を侮辱し蹂躙しようという意図が、容易に見て取れた。
 私の中にそれが入ると思うだけで、背中を冷たいものが伝い落ちていく。
「光ってるのは潤滑油代わりに媚薬を塗ってあるからだ。気に入ってもらえそうか?」
 その<化け物>にシャフトを差し入れながら、マルが言う。
「…まっ…待って…」
 無理だ。入りっこない、絶対に。
「今さら何を待つんだよ。それとも、これでもまだ物足りないか?」
「…そうじゃ、なくて…」
 マルは木馬の中にそれを取りつけると前面の蓋を閉じた。
 その手にはリモコン。
「どうれ、ちゃんと動くかな」
 ごん…と重い音がして−−
 中央の窪みに開いた穴から<化け物>の鎌首がせり上がって来た。
 よく見ると穴は少し細長く、バイブの前後位置を調節できるらしい。マルがリモコンを操作するとバイブが水平移動して、秘裂の真下に来た。
 正面のスクリーンには、凶器に狙われる私の股間がクローズアップされている。左右の太腿の間隔とバイブの亀頭部はほぼ同じ太さ。つまり、入るかどうかぎりぎりというところ。
 全身の汗腺から冷たい汗が噴き出すのを感じる。
「前後だけじゃなく角度も調節できるから」
 マルが私の股間を覗き込みながらまたリモコンをいじると、ほぼ鉛直に立っていたそれが数度傾く。いま、それは秘裂を正面から狙っている。
 思わず脚を引き、腰を上げた。足首に結わえられたウェイトが軽減されていて、私の力でも持ち上げることができる。ただ、脚には無数の指が悪意を込めて蠢いている。力を込め続けるのは難しい。
 どうすれば、いいの−−
「最初はこんな感じでいくから」
 ごんっ……ごんっ……ごんっ…ごんっ…
という動作音とともに、バイブは威嚇するように律動をしてみせる。
「…あ…あ…」
 このまま貫かれたら、裂ける。
「慣れてきたら、こうだ」
 がしゃ……がしゃ……がしゃ…がしゃ…がしゃがしゃがしゃがしゃがしゃ
「…待って…お願い、待ってッ!…待ってくださいっ…」
 そう叫ぶと、バイブの動きが止まった。
「何だよ。覚悟はできてんだろ」
 さっきのバイブのほうがまだ堪えられる。でも、それを聞き入れられるとは思えない。
「…せめて、ローションを塗って…」
 そんな風に要求するのは恥ずかしいが、そんなことを気にしてはいられない。
「潤滑油がわりに媚薬を塗ってあるといっただろう」
 周囲から再び、くくく…という嗤い。
「それに、自分のそこも程良く潤ってるんじゃないのか」
 マルの指が 1 本、不意に秘裂に分け入ってきた。
「…うっ…」
「ほうら、よく濡れてら。ちょっと脚を触られたくらいでこれだからな」
 脚に纏わり付く指の動きがまた念の入ったものになる。
「…それでも、無理っ…お願い、ローションを…」
 まるで私がローションにこだわっているよう。でも、仕方がない。
「ローションさえ塗られれば、この化け物みたいなバイブで犯られるのはイイのか」
「…いいわけじゃ、ありません。でも…」
「でも、何だ」
「…あなたたちが入れるつもりなら…私は…受け入れるしか…」
「受け入れるしかないが、怪我はしたくないというわけだな」
 諸星が横に来た。
「…お願いします…どうか」
「いいだろう」
 諸星が薬剤担当・ズミと話している。
 ひとまず安堵してよさそうだ。これで、裂傷を負うことはないはず。
「奥さま、ローションを要求したのはヒットだぞ」
 マルがまた秘裂を指でこね回しながら言う。
「…どういう意味…」
「今にわかる」
 ふとズミの姿を目で追うと、少し離れたテーブルの前にいた。
 ゴム手袋をし、調理用のボウルに白い粉末を入れ、水を加えてこねる。それは次第に粘りを見せ始め、掬い上げると糸を引く。
 何かに似ていると思ったら、山芋を摺り下ろした汁だと思い至った。
 その動作を繰り返すズミと、目が合った。ズミがほくそ笑んだ。
 ちょっと待って−−
 ズミが用意しているのは明らかにローションではない。山芋の汁を連想させるそれは、もっと質の悪いものに思える。
 そして今、ショーに無関係なものを薬剤担当のズミが作るはずはない。
 ズミはずっと私に視線を送りながら、こねてはすくい上げる動作を繰り返す。
 まるで私に見せつけるように−−
「…もっ…諸星さんっ…あれは…」
「心配するな。ローションと同じでよく滑るから。ただ、それだけじゃないがな」
 ズミが近づいてくる。
「待たせたな、奈美。あいにくローションは切らしてるんだが、代用品があった」
 ひひひ…という嗤いが渦巻いている。
「…まっ…待って…」
 この後に及んでもがいても無駄だ。でも、そうせずにはいられない。
「せっかく用意したんだからな。いやだとは言わせないぞ」
 ズミの右手がボウルからその液体を掬い上げ、私のそこへ手を伸ばした。
「…あっ!…」
 ゴム手袋を嵌めた大きな手が秘裂に沿って動く。液体はひんやりしているが、私の体温で温まるとぬめりを増していくようだ。
「…くう、うっ…」
 ズミの右手は液体を何度か掬い上げ、私の女性器全体、つまりクリトリスから会陰までを何度も往復する。指を秘裂の中に挿れて、液体を膣内にも塗り込めてくる。
「あんなに大量に塗ってるよ。可哀想に」
「奈美が望んだんだから、仕方がないんじゃないか」
 くくく…という嗤いとともに、そんな声が聞こえる。
 後ろ手に縛られた両手をぎゅっと握り、両脚も強張らせて、私は怯える。
 やがて−−
「…うっ!…」
 液体を塗られた部位全体に、激しい痒みが起こったのだ。
「…ああああああッッッ!…」
 大陰唇・小陰唇の襞。膣の内壁。会陰。クリトリス。
 極微細の無数の針が刺してくるようだ。
 何もかもが熱く燃えさかり、猛烈な痒みがめちゃめちゃに暴れ回る。
「…うううッ!…ああっ…助けてッ!…」
 両手が自由であれば掻き毟ったに違いなかった。
 もしも左右の太腿を擦り合わせることができれば、この痒みの数%くらいは楽になったかも知れない。でも、両脚は 120 度に開かされ、足首のウェイトと男たちの手によって押さえつけられている。
 全身にどっと汗が噴き出し、目には涙が溢れる。
「苦しそうだなあ、奈美」
「…助けてっ…気が…気が変になるっ!…」
「気が変になりそうなやつは、自分ではそう言わんよ」
 ズミがマイクを取るのが見えた−−
「ご説明します」
 正面のスクリーンには、相変わらず私の腰部がアップになっている。
「奈美がローションを要求しましたが、そんな都合のいい要求をすんなり呑むほど我々は人間ができておりません」
 この鬼畜め!…と野次が飛び、すぐに爆笑に変わる。
「滑りが良くなるだけでは我々も、おそらく奈美も面白くないので、ディフェンバキア の茎の汁にしました」
 この説明が終わるまでは、私は放っておかれるらしい。気が遠くなってくる。
「ディフェンバキアはサトイモ科に属する熱帯植物の一種でして、その茎の汁は、里芋や山芋の汁と同様、シュウ酸カルシウムという物質を多量に含んでいます。シュウ酸カルシウムの結晶は針のような形状で、それが皮膚や粘膜に付着すると激しい痒みを起こすことが知られておりまして、里芋や山芋の茎の汁にも含まれていますが、ディフェンバキアの汁の痒みは数倍強烈ということで」
 落ち着いて聴いてはいられないが、聴きたくない情報に限って耳に届いてくる。
「ディフェンバキアの茎を絞って濃縮し、乾燥させたのがこの粉末でして。当然、自然にあるものより濃度が高いです。それに水を加えてこねて、奈美の股間に塗ってやりました」
 そこまで言うと、ズミは右手の指をまた秘裂に挿れてきた。そして、膣内から小陰唇にかけて軽く摘まむような、引っ掻くような動作をした。
「…くうッ!…うううッッ!…」
 激烈な痒みを抉り取られると同時に、この世のものとは思えない快感が脳天まで突き上げてきた。目の前に火花が飛ぶ。
 ズミの指は同じ動作を二度、三度と繰り返す。
「…きゃうううッ!…」l
 腰を持ち上げ、不自由な両脚を震わせた。
 もっと−−
 もっと、引っ掻いて−−
「里芋などの汁が皮膚についたときは酢かクエン酸で拭けば、シュウ酸カルシウムが分解されて楽になります。しかし、いま“濃縮還元”したディフェンバキアですと、もっと強い酸を使わなくては効きません」
 痒みが途絶えたかに思えたのはほんの一瞬。またぶり返している。
「いっぽう女の愛液は、酸性ではありますがごく弱い。シュウ酸カルシウムを分解する力はありません。ですので…」
 ごん…と、再び重い音がして、<化け物>バイブが律動を再開した。
「特大のバイブで引っ掻いてやればいいわけです。お誂え向きに、ディフェンバキアの汁はよくぬめりますので、ローションの役割も備えています」
 バイブの先端が近づく。私は息を荒げながら、その瞬間を待つ。
 ほどなく−−シリコーンの塊が秘裂に触れ、こじ開けてくる感触。
 めりっ…と音がしたようなのは気のせいだろうか。思わず身を強張らせる。
「力を抜け、奈美。でないと裂けるぞ」
 バイブの律動はゆっくりだ。
 だが、その亀頭部は着実に秘裂に分け入ってくる。
「…はあっ…はうっ…」
 ぐぼっ…
 いま、巨大な体積が膣口を通過した。
「…あああッ!…」
「入ったぞ」
 そして−−
 ずうっ…と、一気に貫かれた。太く、どこまでも長い“馬の首”だった。
「…ああああああーーーッッッ!…」
 あまりの衝撃と恐怖に絶叫していた。
「へへへ…デカイのを呑み込んだなあ、奥さま」
 マルに前髪を掴まれて、顔を上げる。額に汗が噴き出し、涙も溢れている。
「さっきは随分な口を利いてくれたな。生贄の分際で」
「…怖い…怖いっ…」
 今、バイブは静止している。だが、このままであるはずはない。
「処女みたいなこと言ってんじゃねえよ。 30 人にマワされても堪え抜いた人妻さんがよ」
 恐怖のあまり締め付けようとするのだが、できない。太すぎるのだ。
 やがて−−
「…うあっ…」
 ごん!…
 バイブが一気に下降した。膣の内壁の粘膜を引き摺り出すように−−
 それは同時に、ディフェンバキアの痒みをごっそり抉る動作でもある。
 猛烈な痒みを荒々しく掻き取られて、また目の前に火花が散った。
「…あぐ、うううッッ!…」
 そして−−
 プシャアアアッ!…
 同時に昇り詰めた。
 プシャアアッ!…
 プシャアッ!…
 プシャッ!…
「おお、イキやがった」
「…ううっ!…うむ、うっ…」
 深過ぎる快楽に両脚が痙攣する。
 そして、また−−バイブがせり上がってくる。
 ごん!…
 最初に貫かれたときは恐怖のあまり意識の外だったが、バイブが上昇しても下降しても粘膜の痒みは抉られる。だから−−
「…いやっ…あああッ!…」
 プシャアアッ!…
 またしても、いった。
 プシャアッ!…
 プシャッ!…
「なんだなんだ、まだ馴らし運転だぞ。そんなに気持ちイイのか?」
 マルはまだ私の前髪を掴んでいる。
「それじゃ、本格的にピストン運動が始まったらどうなるんだ?」
「…まっ…待って…」
 バイブが一往復しただけで 2 回絶頂してしまったのだ。
 ピストン運動などされたら、私は、もう−−
「待てねえな。敏感な粘膜が痒くてたまらないんだろ。バイブにこそげ取ってもらいな」
 ごん!…ごん!…
 バイブが一気に下降し、また上昇した。
「…だめっ!…だめ、なのっ…」
 こんなにも深く、際限なく絶頂し続ければ死んでしまう。だから歯を食い縛って堪えようとしたが−−
 押し寄せてくる強烈な快感に抗うことはできない。
「…きゃうッ!…ぐううっ!…」
 プシャアッ!…
 プシャッ!…
 絶頂のあまりの深さに呼吸ができないほど−−
 バイブの運動は続く。その周期は次第に短くなっていく。
 ごん!…ごん!…ごん!…ごん!…ごん!…ごん!…
「…はうっ…はっ…いやっ…」
 プシャアッ!…
 プシャッ!…
 バイブの運動に屈して、私は立て続けに、数え切れないほど昇り詰めた。気絶することもできないまま−−
「…お願いっ…一度止めて…休ませて…」
 そう訴える間にも、バイブはピストンを繰り返す。
 がしゃ……がしゃ……がしゃ…がしゃ…がしゃがしゃがしゃがしゃがしゃ
「…うぐううッッ!…いやっ…」
 プシャッ!…
「すげえすげえ。奥さまはイモの汁とバイブの組み合わせが大層気に入ったと見える」
 何度バイブに抉られても、快楽が押し寄せてくるばかりで、痒みは消えない。
 気がつくと、背後に大勢の男たち。
 アヌスに指を感じた。ローションを塗り込んでくる。
 思わず振り返って、
「…何するんですっ…」
「奈美のアナルをいただくんだよ」
 張りのある肉塊が触れたかと思うと、それはずうっ…と貫いてきた。
「…あああッ!…」
 背後から乳房を揉みながら、アヌスに抽送してくる。
「奈美は二本差しが好きなんだろ。前はバイブに任せて、俺たちはアナルにご奉仕だ」

 中山奈美こと千倉愛美は、木馬の上で無残な姿勢を取らされたままバイブに犯され、無限回の絶頂を強いられていた。
 客やスタッフに囲まれたまま、愛美はもう 2 時間近くも俎上に置かれている。客たちは飽きることなく愛美の脚に指や唇を這わせ、乳房を、背中を、脇腹をいじりまわす。
 そして−−
「…うああっ!…」
 アヌスは希望者に“開放”されていた。いま 10 人目の客が、愛美の細い腰を両手でがっしと捕らえ、汗だくでアヌスへの慣れぬピストンを浴びせていた。
 やがて愛美の全身が硬直する−−
「…ぃくっ…」
 ほんの束の間の失神も許されず、続けざまに絶頂する愛美。その回数はこの夜も 100 に迫っていた。
 たびたび潮をしぶかせ、その間にはねっとりとした愛液を滴らせて−−
 バイブは、生贄が何度達しようとも、どんなに消耗しようとも、その動作を緩めはしない。無機的に抽送を繰り返すのみだ。今やそれは愛美の愛液で真っ白になっている。
 愛美は、薄れる意識の中で、このまま自分は死ぬのだと思っていた。
 あるいは、もしかしたら、もう死んでいるのかも知れないとも思っていた。
「…くっ…」
 勢いは衰えたが、それでも淫欲のマグマは湧き起こってくる。そして、しきりに沸騰しては愛美の全身を震わせるのだ。
 絶頂してがっくりと崩れ落ちる愛美を、バイブの抽送がまた覚醒させる−−
 いまアヌスを犯しているのは、何人目だったろう−−
 背後は見えない。肉の張りなどから推して若くはないようだが、ペニスを抽送しつつ、両手で愛美の乳房を背後から掴み、執拗にこね回す様子は、飢えた若者のようだ。
 ピストンが早くなる。また、射精される−−
 朦朧とする意識の中でそう思った、その時だ。
「…愛美っ…」
 背後から名を呼ばれて、我に返った。ナミではなく、マナミと言った。
 客が愛美の名を知るはずがない。考えられるのは、愛美を知る者が偶然にも「楼蘭」の会員だったという事態だ。
 だが愛美を戦慄させたのは、自分を呼んだその声が父のものだったことである。
(…お父さん?…)
 振り向こうとしても、彼の顔は視界に入らない。あまりのことに狼狽するうち、
「…あ、うッ!…」
 愛美はまたしても昇り詰めた。すると、
「おう」
 ドピュ、ピュ。
 直腸に熱い汚濁が注がれるのを感じた。
 ドピュ。
 振り絞るように射精を終えると、背後の男はそのまま崩れ落ちた。
 まずいぞ!−−救急車か?−−
 スタッフたちが騒ぎ出す。場内にいた M 女たちも駆け寄ってくる。
 ここに呼ぶわけにはいかん。とにかく、上へ担ぎ上げろ−−
 だめだ。動かすな。 AED 持ってこい−−
 お願い、救急車を呼んで−−そう言うつもりだったが、言葉が出てこない。
 混乱する場内で、愛美はなおも木馬の上でバイブに犯され続けた−−

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